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福祉の経営者を目指す方へ ”福祉事業の特殊性” ‐ 中小零細が支える業界発達障害支援会社の創業・経営を通じて 第2章 第2節

2017年9月10日

福祉事業の経営を考えている方への本シリーズ。前回は福祉業界での「お金まわり」の特徴をまとめました。今回は”福祉の特殊性”の続きで「企業・団体の大きさ」を考えてみたいと思います。

【参考】”福祉事業の特殊性” ‐ お金まわり

小さい組織が生き残りやすい

福祉は小さな企業・団体が多いことが特徴です。これは今後も大きくは変わらないでしょう。福祉全体で見ると数兆円の巨大産業でありながら、大きな社会福祉法人・企業でも従業員が1,000人(売上としては100億円/年ぐらいでしょうか)を越えているところは稀です。この業界で大きいと言ってもせいぜい百人から百人規模(年間売上10億から数十億円)。事業者の多くは数十人の小所帯で売上も数千万円から数億円程度だと思われます。

少し経営書を読んだことがある方は知っているかもしれませんが、独占(1社のみが勝ち残る)や寡占(複数)が進みやすいか、あるいは少数の事業所が生き残りやすいかは、扱っている商品やサービスや消費者の好みによってだいぶ異なります。福祉は中でも小規模事業者が生き残りやすい業界と言えるでしょう。

小規模事業所が生き残りやすい業種として私が例に挙げるのが、外食産業です。牛丼チェーンや居酒屋チェーンの中でのシェア争いなどのニュースを日々目にしていると、日本の外食産業は一部の大きな事業者しか生き残れないのではないかと思ってしまうこともあるかもしれません。しかし私が以前習ったことは、日本で最大のシェアを持っているのはマクドナルド。でもそれは外食全体の1%もない、というものでした。もちろん大きな会社になったほうが、食材の購入が一括でできますので1店あたりのコストが下がりやすく、ノウハウなどの標準化もレベルアップする可能性が高く、より快適なサービスが提供できたり、安定してメニューが提供できるかもしれません。

ところが、一般的に消費者は毎日同じものを食べたいわけではなく違うものが食べたいと思うでしょうし、食に対する嗜好は一人ひとり違うわけですので、一つの大きなレストランチェーンが日本の外食市場を牛耳るのはなかなか難しいことです。(ですので、同じグループ会社でも違うブランド名で営業をすることが一般的ではありますが、それでも次々に新しい個性的なレストランが生まれてきます。)つまりソフトウェアの業界のようにウインドウズがOSを支配したら他のOSは自然と淘汰されるという業界とは大きく違います。

福祉も似たようなもので、数兆円の規模の市場を数社で占めることになるとは考えづらいところがあります。もともと社会福祉法人が地域に根づいていること。規模を大きくしても会社として共有できる部分が少なく「規模の経済」が効きづらい点。むしろ会社の売上が大きくなるほど利益率が低下しやすい「規模の不経済」の側面すらあり、小さい事業所に付け入る好きが大きいなどがあると思われます。(採用や集客は会社が大きくなるとメリットが大きいでしょう。一方で組織が大きくなると質が下がりやすく、個性のある支援がしづらくなり、地域ごとのニーズに寄り添いづらくなってしまって、かえって競争力が落ちてしまう可能性があります)。 

【参考】介護業界のランキング、シェア

適正な企業のサイズは?

つまり小回りを活かせる部分が福祉ではプラスに働くことが多くあります。福祉の場合は、多くの業界のように営業成績(売上の多さ・少なさ)で社員間で優劣がつくわけでもなく、やや似ている学習塾のように合格者数の多さや向上させた点数によって優劣がつくわけでもなく、もっと大きな人生に寄り添う仕事であるため、「優良」とされる軸が個々人によってぶれがちです。一人ひとりの福祉へのこだわりを上手に整える時に組織の大きさはむしろ仇になる可能性があり、小さく経営層から現場まで一体であるからこそ心や魂を込めたサポートができる可能性が高まるでしょう。

またこれからの時代、対人サービスの場合は個性が重要になってくることは明らかです。大きくなりつつ、事業所ごとのユニークさを出すということもできると思いますが、どの企業もできるものではありません。どうしても大きくなると個性がなくなる傾向があります。たとえば当社も大きくしようとすると、発達障害×仕事×長所の活用 という事業ドメインの制約を取り払って、違うカテゴリーのサービスにも展開していかないといけないかもしれません。福祉をやりたかったはずなのに、「一体何屋さんになるのですか?」という状態になってしまう可能性があります。内部の社員も頭に”?”が浮かぶと思いますし、せっかく個性を好んで自社を選んでくれたお客様も離れていってしまう可能性が高まります。

ただし小さすぎると安定性を欠きます。福祉の場合は行政のルールに基づいているため、一定程度の資格者が必要だったり、一定程度のオフィスが必要だったりと、最低限必要とされるヒト・モノが決められています。つまり経営が傾いたからオフィスを小さくするとか、社員をリストラするといった、コストを切り詰める対策ができづらい点があります。また大きな企業ですと資格者を一定数は組織内で雇うことができる(バックアップの人材をおいておける)可能性がありますが、1事業所しか無いような小さな組織だと誰かが辞めると代わりがいない、その瞬間事業継続が難しくなる(取り消しになったり、大きな減算になったり)ことが考えられるでしょう。つまり安定的に組織を運営させるためには小さければ小さいほうが良いということではありません。

結局、他の事業と一緒になってしまうかもしれませんが、福祉事業をする場合の企業の規模は経営者が気持ちのよい、安心できる程度の規模にしていくということが正しいと思われます。なおこれは福祉事業を新たに起こす新米経営者目線であり、すでに他の事業でしっかりと経営基盤がある人が福祉業界に新規参入する場合はまた違ったバランスや文脈で事業規模を定義していくのだと思います。

いずれにせよ、福祉事業は特段大きな初期投資が必要とされず、行政のルールに当てはまってさえいれば参入はし易い上に、業界全体として小規模事業所が活躍しやすいということです。何か対人サービスで社会に貢献したい、事業体を経営したいという人には、うってつけの業界なのかもしれません。

【リンク】福祉の経営者を目指す方へ 目次

 

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年9月)

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