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Kaien創業記 第3回米国の起業文化

2024年9月9日

第2回ではKaien起業のきっかけとなったデンマークのIT企業「Specialisterne(スペシャリスタナ)」について取り上げました。今回はMBAの授業やビジネスプラン・コンペティションの参加を通じて感じた米国の起業文化について触れます。米国に行かなければ起業など全く考えなかったでしょう。

米国はいろいろと問題がある国なのは確かです。しかし、こと起業に関しては優れた価値観を持っています。米国は起業家に特別な地位、敬意を払ってくれます。新しいことをすることの社会への価値を理解し、本気で応援してくれます。多くの新しい企業が米国から誕生し、育っていくのはやはり理由があるのです。

Kaienも日本でビジネスプランを書いたならば、今の状態になっていなかったかも知れません。なにしろ日本で同じ発表をしたら、私が元NHKアナウンサーで、ビジネス経験もなく、ソフトウェアに関する素養もなく、ましてやソフトウェアの検証業務はまったく知らない、ということを徹底的に疑問に思われるでしょう。
また発達障害についても障害者がそんなことをできるわけがない、あなたは福祉の資格も一つも持っていないのに、なんでそんなことをするの?などと、針のむしろの状態だったと思います。事実日本に帰ってから、ビジネスプランを説明すると毎回のように「いじめ」にあっていました。そういったいじめの後、ダメージを受けずに会社を前進させないといけなかったのが精神的に辛かったことを思い出します。

米国の起業精神をそこかしこに感じるMBAの授業の中で、私の起業についての心配は徐々に溶けていきました。特に心配していたのが次のような不安です。

●既にあるモデルを日本に移管することが起業という範疇に入るのか?

●自分自身がITについて知らない。ソフトウェア検証についてはもっと知らない。これで起業ができるのか?

まず一つ目からですが、模倣は最も成功率の高い起業方法としてむしろ歓迎されているのがわかりました。私たちもビジネスプランの中でこのあと何度、Proven Model(証明されたモデル)、Replicable(移管可能)という言葉を使ったかわかりません。起業は、ゼロからすべてを自分で行うことではなく、頼っていいところはすべて他人に頼ってコストを下げたり成功率を上げたりすればいいんだ、と認識してからは起業という言葉にあまり恐れを抱かなくなりました。
確かに世の中を見回すと本当にゼロから立ち上げたビジネスモデルはほとんどなく、多かれ少なかれお手本があるものです。ケロッグの授業ではコンビニやディーラー、マクドナルドのファストフードチェーンといったフランチャイズモデルを経営することも起業家として平等に扱われます。むしろそういった証明された型が既にあるほうが成功確率は上がるため、起業家としての道を選ぶならばそうした道をまず取るということが好まれているような気さえします。

ただ、水曜は午後4時に全員の退社が義務づけられているというデンマークの労働モデルを日本にそのまま移管できるはずはありません。またデンマークと日本とはビジネス慣習も違います。つまり幾ら真似をしようとしても、最終的には啓示を受けたというべきレベルで終わり、結局のところは自分たちで多くの部分を作り上げていく必要があることに徐々に気づかされました。
「当初の青写真とまったく変わらないプランだったらそれはおそらく失敗するビジネスプラン」とマーキン教授の授業でも教わりましたし、その通りではないかと今感じています。
また事業の専門性を起業家が持っているかについてですが、もちろん業界の経験は非常に大きな力になります。ビジネスプランの優劣を競う大会であるビジネスプラン・コンペティションでも、経営層の業界経験、また起業経験は最も重視される項目です。

スペシャリスタナが成功できたのも、創業者のトーキルがソフトウェア業界でマネージャーの経験があり顧客を知っていたうえに、息子が発達障害で、発達障害の特徴について理解が深かったからだと思います。ただマーキン教授からは「そもそもKaienのモデルは『証明されたビジネスモデル』だから経営者は必ずしも業界出身者ではなくてもよい」とアドバイスを受けましたし、他のIT企業のマネージャーからも「業界のことは勉強すればよいし、そもそもトップは経営上正しい意思決定ができればよい」というものでした。

私なりに理解すると、結局は一人でできることは限られていて、起業家の仕事の大部分は、プランに必要なものの自分には足りないスキルを補える人間を見つけ口説くことにあるというものです。実際、ケロッグでも「ケロッグを卒業後、起業家としてもっとも役に立つのは人事の授業だろう」と教わったように、人を見極める力、鼓舞する力、そして場合によっては関係を絶つ勇気があるかどうかが成功の鍵を握るのではないかと感じるようになりました。

そして私がなによりも嬉しかったのは、なにか不安や課題を私が口にした時、マーキン教授から「それは問題なのはわかっている。だがもし解決できたらどういう世界が待っているのか?それを語れないといけない」と言われたことです。課題は課題と認識して解決するために取り組む。だけれどもその壁を乗り越えるだけでは会社の目的は達成できません。会社の目的をしっかりと設定するためにも一つひとつの課題をクリアした先になにがみえるのかしっかりと見ておけと言われました。

当初のビジネスプランは、矛盾や課題が多いものです。それの一つひとつを叩くのではなく、「もしそれらが解決したときに、今のビジネスプランは本当に最大の売上、利益、インパクトを与える姿になるのか?」という理想像を常に考えるように教わりました。当然その理想も絵空事なのですが、そのイメージをいかにしっかりとメンバー間で実現可能なものとして具体的に共有しているかが必要なのだと思います。短く言うと起業家はビジョンを持つのが大事だということだと思います。

いかに美しいプランを書いてもリスクは常にあります。起業が成功する確率は10%ほど。「野球と一緒で3回に1回当たれば凄いほうだ」といわれます。最終的には起業家自身がその不安定な状況を快適に、楽しく感じられるかどうかにかかっている気がしています。米国でこれまで何人もの起業家と会いましたが、このスリリングな状況を楽しんでいるのを強く感じました。こういう人たちが沢山いるから米国はいろいろな問題を抱えつつもイノベーションを次々に生み出せているような気がします。

いかがだったでしょうか?第4回は日本に帰国し株式会社Kaienを登記・創業したものの早速壁にぶつかって試行錯誤し始める起業直後のストーリーです。

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