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福祉の経営者を目指す方へ ”福祉事業の特殊性” ‐ 行政・制度との関係 発達障害支援会社の創業・経営を通じて 第2章 第3節

福祉事業の経営を考えている方への本シリーズ。”福祉の特殊性”の第3回。「行政・制度との関係」を考えてみたいと思います。

【参考】”福祉事業の特殊性” ‐ お金まわり
【参考”福祉事業の特殊性” – 事業規模

福祉の週刊実話

こんなことを書くと行政に喧嘩を売っているのかと思われるかもしれません。たしかに担当者が読まれたら良い気はしないとは思いますが、福祉の経営をしていれば、このぐらいのことはあるよということは知っておいてほしいのです。当社の実例をあげますが、そのままだと流石に恥ずかしいところ、あるいは関係者にご迷惑がかかる可能性もあり、少し脚色します。

実話① 要件が足りない?

A市でサービス管理責任者として認められていた当社スタッフを、B市の事業所に異動させようとしたときのことです。A市で問題ないと言われていた”直接支援”の過去の実務がB市では認められないかも知れない、といって騒いだことがありました。最終的には認めてもらえたのですが、行政(都道府県/政令指定都市など認可を出す自治体)によって解釈に違いがあることは理解しておいたほうが良いでしょう。

実話② 経験年月の計算方法が違う?

こちらも行政によっての違いがある可能性があります。例えば、昨今様々に喧しい放課後等デイサービス。「児童指導員」や「障害福祉サービスに2年以上従事したもの」の配置が必要になります。当社もルール変更に適応しようとしたところ、以下のような違いが行政であることがわかりました。

例)障害福祉サービスに従事した2年間の解釈について

  • Aさん 週2日(年72日)×5年=360日
  • Bさん 週5日(年180日)×2年=360日

Aさんは”非常勤”で働いていたスタッフ。が、通算2年以上は従事していますし、福祉業界では標準である1年の経験=180日という意味でも360日(つまり実質2年分)の実働があるパターンです。Bさんは勤務開始後2年であり、”常勤職員”であるため実働360日に到達しているパターンです。

本来これは全国的に統一してほしいところですが、どうやら東京都は、Aさんは×、Bさんは◯、という解釈。一方で神奈川や埼玉・千葉はAさんもBさんも◯という解釈であることが先ごろわかりました。つまり東京都ですと非常勤で働いていた期間は障害福祉サービスに従事したことにはならないらしいのです。

放課後等デイサービスではAさんのような働き方をしている人は多数いるはずで、様々な事業所でも来年(2018年)4月以降のルール変更に合わせてスタッフを拡充していると思いますが、こうした細かな解釈は問い合わせないとわからない部分があります。当社はたまたま先に知り得たから良かったのですが、ルール変更後に気づいたらそもそも事業運営が出来ないということにもなりかねません。都内の他の事業所でこのルールに抵触しているところはかなりあるはずで、事業の継続が心配されます。

実話③ 実は違法建築?

行政対応と言っても福祉関係だけではありません。建築や消防も福祉事業ではかなりご厄介になる行政です。

世の中には案外違法な建築が多いのです。始めから違法になっていることはないのですが、テナントが入れ替わりするうちに、実は今の状態は違法であるという建築が多くあります。当社が入ろうとした某物件では、「建築当時は駐車場だったところにドラッグストアが入っていますよね。この場合、適応する法令が変わってきて…」と違法状態になっていることを一級建築士の方に指摘されたため、急遽契約手続きをストップしたことがありました。このあたりは不動産業者も気づかなかったところで、適した専門家に聞いておかないと後で事業継続できないということにもなりかねません。

実話④ 用途変更はしている?

その他、100㎡以上で福祉事業をしようとするときは建築基準法で『用途変更』をしないといけないのですが、この100㎡の解釈も各行政によって異なりますし、用途変更がない場合も、バリアフリー条例が関係してきて(発達障害専門であるにも関わらず)オストメイトのトイレが必須であると指摘してきた建築課もありました。(※バリアフリー条例の過度な適応については、小規模保育園などの事業拡大に足かせになることから、東京都都市整備局部長からの文書で適応除外の具体例が示され、福祉事業全体にとってかなり常識的に動ける環境にはなっています。)

実話⑤ 自火報(自動火災報知機)はついている?

また消防から自動火災報知機が福祉事業に適合したものになっていないのではないかと指摘されて、300万円をかけてビル全部の自動火災報知機を交換したということも、恥ずかしながら過去の当社事例です。このあたりは、1階だったら…、3・4階なら…、階段が屋外だったら…、などと細かい規制で、消防の担当者も間違って理解していることもあり、「さっき署に来てもらってお伝えした内容ですが、違うことをお伝えしてしまったかもしれませんので、もう一度確認しても良いですか?」などと消防から電話がかかってくることもあるほどです。

帽子を自分の頭に合わせるのではなく、帽子に合わせて自分の頭を削りなさい

じゃあ、どうすればよいのかということになります。まずは、福祉事業を営もうとしたら行政へ連絡は頻繁に蜜にすることをお勧めします。それでも指定が降りるべき日に新たな条件を提示されるということもあるほどです(涙)実際、今月営業開始した事業所も指定予定当日に新条件が提示され1週間以内の対応を求められ焦りました。

行政の悪口をいうことはいくらでも出来ます。でも税金が投下され、とにかく法令に合わせて動かないといけないのが福祉事業です。お上の言うことが正しいわけではないですが、従わないといけないのは確かです。私が経営をするときに、「行政からお金をもらうならば、”帽子を自分の頭に合わせるのではなく、帽子に合わせて自分の頭を削りなさい”」というアドバイスを受けました。本当はこうじゃない!、自分はこうやりたい!、こうした方が誰にとってもプラスだ!、と息巻いても事業が開始できませんので、魂を売らない程度に自分の頭を削る必要があるでしょう。

いずれにせよ、福祉の法令はともかく、建築基準法や消防法はかなり難解で専門家の助けを借りたほうが良いと思います。特に建築士の先生は福祉に詳しい方に相談されることをお勧めします。当社は建築再構企画さんにお世話になっています。

 

【リンク】福祉の経営者を目指す方へ 目次

 

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年9月)

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福祉の経営者を目指す方へ ”福祉事業の特殊性” ‐ 中小零細が支える業界 発達障害支援会社の創業・経営を通じて 第2章 第2節

福祉事業の経営を考えている方への本シリーズ。前回は福祉業界での「お金まわり」の特徴をまとめました。今回は”福祉の特殊性”の続きで「企業・団体の大きさ」を考えてみたいと思います。

【参考】”福祉事業の特殊性” ‐ お金まわり

小さい組織が生き残りやすい

福祉は小さな企業・団体が多いことが特徴です。これは今後も大きくは変わらないでしょう。福祉全体で見ると数兆円の巨大産業でありながら、大きな社会福祉法人・企業でも従業員が1,000人(売上としては100億円/年ぐらいでしょうか)を越えているところは稀です。この業界で大きいと言ってもせいぜい百人から百人規模(年間売上10億から数十億円)。事業者の多くは数十人の小所帯で売上も数千万円から数億円程度だと思われます。

少し経営書を読んだことがある方は知っているかもしれませんが、独占(1社のみが勝ち残る)や寡占(複数)が進みやすいか、あるいは少数の事業所が生き残りやすいかは、扱っている商品やサービスや消費者の好みによってだいぶ異なります。福祉は中でも小規模事業者が生き残りやすい業界と言えるでしょう。

小規模事業所が生き残りやすい業種として私が例に挙げるのが、外食産業です。牛丼チェーンや居酒屋チェーンの中でのシェア争いなどのニュースを日々目にしていると、日本の外食産業は一部の大きな事業者しか生き残れないのではないかと思ってしまうこともあるかもしれません。しかし私が以前習ったことは、日本で最大のシェアを持っているのはマクドナルド。でもそれは外食全体の1%もない、というものでした。もちろん大きな会社になったほうが、食材の購入が一括でできますので1店あたりのコストが下がりやすく、ノウハウなどの標準化もレベルアップする可能性が高く、より快適なサービスが提供できたり、安定してメニューが提供できるかもしれません。

ところが、一般的に消費者は毎日同じものを食べたいわけではなく違うものが食べたいと思うでしょうし、食に対する嗜好は一人ひとり違うわけですので、一つの大きなレストランチェーンが日本の外食市場を牛耳るのはなかなか難しいことです。(ですので、同じグループ会社でも違うブランド名で営業をすることが一般的ではありますが、それでも次々に新しい個性的なレストランが生まれてきます。)つまりソフトウェアの業界のようにウインドウズがOSを支配したら他のOSは自然と淘汰されるという業界とは大きく違います。

福祉も似たようなもので、数兆円の規模の市場を数社で占めることになるとは考えづらいところがあります。もともと社会福祉法人が地域に根づいていること。規模を大きくしても会社として共有できる部分が少なく「規模の経済」が効きづらい点。むしろ会社の売上が大きくなるほど利益率が低下しやすい「規模の不経済」の側面すらあり、小さい事業所に付け入る好きが大きいなどがあると思われます。(採用や集客は会社が大きくなるとメリットが大きいでしょう。一方で組織が大きくなると質が下がりやすく、個性のある支援がしづらくなり、地域ごとのニーズに寄り添いづらくなってしまって、かえって競争力が落ちてしまう可能性があります)。 

【参考】介護業界のランキング、シェア

適正な企業のサイズは?

つまり小回りを活かせる部分が福祉ではプラスに働くことが多くあります。福祉の場合は、多くの業界のように営業成績(売上の多さ・少なさ)で社員間で優劣がつくわけでもなく、やや似ている学習塾のように合格者数の多さや向上させた点数によって優劣がつくわけでもなく、もっと大きな人生に寄り添う仕事であるため、「優良」とされる軸が個々人によってぶれがちです。一人ひとりの福祉へのこだわりを上手に整える時に組織の大きさはむしろ仇になる可能性があり、小さく経営層から現場まで一体であるからこそ心や魂を込めたサポートができる可能性が高まるでしょう。

またこれからの時代、対人サービスの場合は個性が重要になってくることは明らかです。大きくなりつつ、事業所ごとのユニークさを出すということもできると思いますが、どの企業もできるものではありません。どうしても大きくなると個性がなくなる傾向があります。たとえば当社も大きくしようとすると、発達障害×仕事×長所の活用 という事業ドメインの制約を取り払って、違うカテゴリーのサービスにも展開していかないといけないかもしれません。福祉をやりたかったはずなのに、「一体何屋さんになるのですか?」という状態になってしまう可能性があります。内部の社員も頭に”?”が浮かぶと思いますし、せっかく個性を好んで自社を選んでくれたお客様も離れていってしまう可能性が高まります。

ただし小さすぎると安定性を欠きます。福祉の場合は行政のルールに基づいているため、一定程度の資格者が必要だったり、一定程度のオフィスが必要だったりと、最低限必要とされるヒト・モノが決められています。つまり経営が傾いたからオフィスを小さくするとか、社員をリストラするといった、コストを切り詰める対策ができづらい点があります。また大きな企業ですと資格者を一定数は組織内で雇うことができる(バックアップの人材をおいておける)可能性がありますが、1事業所しか無いような小さな組織だと誰かが辞めると代わりがいない、その瞬間事業継続が難しくなる(取り消しになったり、大きな減算になったり)ことが考えられるでしょう。つまり安定的に組織を運営させるためには小さければ小さいほうが良いということではありません。

結局、他の事業と一緒になってしまうかもしれませんが、福祉事業をする場合の企業の規模は経営者が気持ちのよい、安心できる程度の規模にしていくということが正しいと思われます。なおこれは福祉事業を新たに起こす新米経営者目線であり、すでに他の事業でしっかりと経営基盤がある人が福祉業界に新規参入する場合はまた違ったバランスや文脈で事業規模を定義していくのだと思います。

いずれにせよ、福祉事業は特段大きな初期投資が必要とされず、行政のルールに当てはまってさえいれば参入はし易い上に、業界全体として小規模事業所が活躍しやすいということです。何か対人サービスで社会に貢献したい、事業体を経営したいという人には、うってつけの業界なのかもしれません。

【リンク】福祉の経営者を目指す方へ 目次

 

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年9月)

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福祉の経営者を目指す方へ ”福祉事業の特殊性” ‐ お金まわり 発達障害支援会社の創業・経営を通じて 第2章 第1節

法人を立ち上げ、経営していく時に注意しないといけないことは山ほどあります。それのチェック項目を論理的に捉えることも出来ますし、より感覚的に捉える方法もあるでしょう。最終的にビジネスというのは勝てば官軍負ければ賊軍というところは否めず、うまくいっている経営者が大手を振れるのですが、そうはいっても幾つか気をつけたほうが良いところは共通しています。このシリーズでは個人的な意見は述べながらも、基本的には誰もが反対しない基礎の基礎をまとめていきます。(ただし網羅的に書くことが目的ではないので抜け漏れや偏りはあることはご承知おきください。)

どの業界も特殊といえば特殊ですが、福祉業界は国・地方自治体の法令やその運用方針に大きく影響を受けますので、経営者としてその独自性を理解しておく必要があります。また行政だけではなく、利用する人、働く人など、福祉事業には門外漢だった私からすると、不思議さ意外さが満載の業界でもあります。あまりMBA(経営学修士)でも学ばないレベルのことに目を配っていないと行けないのは当初は気づけていませんでした。

この第2章では、お金の回り方、自社らしさと同業他社との関係、働く人の特徴(現場と組織運営)、利用者との関係性、リスク管理などから福祉業界を考えていきましょう。

なぜ”営利企業”が福祉をできるのか?

日本での福祉は、行政と社会福祉法人が長年担ってきました。徐々にその時の現状を受け入れる形で法令も整備され、地域ごとに社会福祉法人が育つことで福祉の底上げが図られてきたと思います。国が順調で経済が伸びている間や働ける若者が国の厚生の大部分を占めるうちはそれでよかったのかもしれませんが、徐々に経済力が落ち、また労働者が少なく支えられるべき高齢者などが増える段階になって、これまでと違う発想で福祉を運営しようという流れになりました。それが障害福祉で言うと、小泉政権下で行われた障害者自立支援法(今の障害者総合支援法)の導入であり、民間の力を入れて、また市場原理を入れて、福祉を効率的に効果的にしていこうという流れです。長くなりましたが、このような背景で当社のような株式会社が福祉の業界に入ることが出来たわけであり、福祉事業体の経営というのはまだまだ日が浅い、10数年程度の長さでしか無いことがわかります。

とはいえ、営利企業が国や地方自治体からお金を受け取るのはそれほど珍しいことではありません。例えば建設業界は公共事業を国土交通省などから受注して道路や橋を建設しているわけですが、それによって利益を上げていることにあまり異を唱える人を見たことがありません。あまりにも当たり前になったからでしょうか。もちろん建設業界は民間の建物も受注していますが、土木といわれる公共事業からの売上は数割はあることが一般的です。(かつほとんどのゼネコンは資本主義の中枢である上場企業です。)

ですので営利企業として福祉をすることをそれほど特殊に考えなくて良いでしょう。道路や橋の工事と同じく適正な利益であれば社会は受け入れてくれますし、もっと重要なのは道路や橋が安全を提供しているように、福祉が国民に安全を提供する、結果を残していくことなのだと思います。

公費に頼る事情

ただ福祉事業体は売上のほとんどを公費に頼っていることは事実です。現に当社もそうですし、障害福祉業界のガリバーとも言えるリタリコ社(上場しているので財務諸表で中身はかなりわかります)も売上のほとんどはまだ公費に頼っており、福祉で稼いだお金を使い、上場で資金を手にすることで、福祉以外の事業を育てようと頑張っていることがわかります。

なぜ福祉は公費に頼らないといけないのか。答えは明白で、受益者と呼ばれる人たちがお金がないことが圧倒的に多いからでしょう。当社の例でも、発達障害の人の就労支援をする際に、仕事がない人をサポートするわけですから、当然ご本人たちにサービスを利用する経済的な力がないことがほとんどになります。特に障害福祉は保険制度がない(このあたりはややこんがりやすいですし、シリーズの中で今後触れられたら触れます)ために、税金に多くを頼る構造にならざるを得ないといえます。

このため、福祉事業をする上では、行政との付き合いは必須ですし、法律が変わったり、運用方針が変わったりすると、売上に大きく影響を受ける事業です。”公共事業”に頼る業界の中でも、その割合が高いことは意識しておく必要があります。福祉をする事業所が、当社もそうですが、福祉以外の事業を育てたいと思うのはごく自然な流れです。当社もガクプロという大学生向けのセッションを行っています。これは「発達障害(含・傾向)の学生向けの内定塾」であり、100%親御様からお代を頂いていますので、福祉予算とは切り離されたビジネスです。とはいえ、利益を出せているかというとそうでもないのですが・・・。

では福祉事業は危ないかというとそんなことはありません。全く逆と言えましょう。例えば介護事業を行っている営利企業というと、ニチイ学館、ベネッセ、損保ジャパン、セコム、パナソニック、イオンなど、錚々たる企業群が運営しています。残念ながらという面もあるかもしれませんが、生活に困っただったり、支援が必要になったりする人は、一定数社会には存在し、その割合は今後高くなることが容易に予想されますので、ある意味安定した業界でもあるということです。このため、事業の安定性と成長性、それからブランドイメージ向上に魅力を感じた有名な企業が参入してくるわけです。問題なのは、福祉事業の一本足打法になっている場合であり、それは福祉をしたい!という小規模事業所の性でもありましょう。当社も例外ではないのです。福祉事業がなくなること自体は考えにくいですが、お上の考え一つで、利益率が減ったり、既存のスタッフや施設では運営が難しくなる場合があるリスクは常にあります。

まとめますと、営利企業が公費をもらう事業をするのは特に悪いことではなく結果が何より重要であること、売上の見込みとしては安定した公費を頼れるが、行政の方針一つで事業計画の大きな変更を迫られる場合があるということになります。

お金の回り方については、経営の肝でもありますので、今後の章でも度々触れていくと思います。

【リンク】福祉の経営者を目指す方へ 目次

 

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年9月)

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福祉の経営者を目指す方へ ”はじめに” 発達障害支援会社の創業・経営を通じて学んだこと 第1章

ちょうど10年前の8月に息子が発達障害の診断を受けました。MBA(経営学修士)のため2年間留学をするために渡米する直前のことでした。なかなか受け止めが出来ず頭も心も大分混乱しました。それから2年後の2009年に帰国とともにKaienを起業しました。自分が経営者になるとは渡米前は思っていなかったですし、働く業界もまさか福祉になろうとは思っていませんでした。(MBAの後に一般的である経営コンサルタントになるのが目標でした。)

マンションの一室で一人始めた会社。まったく知らない業界で、知識も経験も人脈もない状態からのスタートです。特に初めの2・3年は本当に苦しみました。自分への給与も全く出せないほどで、家族や知人に世話をしてもらいながら食いつなぎました。経営が軌道に乗り始めた今でも、経営に失敗して会社のお金が底をつくことへの恐怖心は変わらず続いています。私が修めたMBAは経営学の修士号ですが、MBAを持っているからといって優れた経営者になれるわけではありません。経営の分析は後付けではできますが、未来に起こることを予想しながら社員を活用していく力はMBAで学べるものではありません。実際自分自身も経営については取引先の企業の方々や周囲でサポートしてくれる先輩方から実地で学んだ気がします。

このように相変わらずビクビクとした経営であることは確かなのですが、周りを見渡すと、自分は恵まれた方であることに気付かされます。単純な知識不足で経営がうまく行っていない例や、経営者が孤立無援で心理的に苦しい思いをしている例にたくさん出くわすようになりました。また福祉分野で起業したいという人も多く出会いましたが、思いが形になっている例がなかなか見当たりません。せっかく面白く価値のある福祉業界でありながら、また現場への思いがありながら、それを経営する力が弱いために事業を立ち上げられなかったり、組織が崩れていってしまったり、あるいは思いの外発展させられない例が多いのは残念なことです。

実は福祉のアキレス腱は経営ノウハウ、経営者や管理者の育成ではないかというのはここ数年感じてきたところです。どこの福祉の組織でも現場にいるスタッフはあまり変わらないものです。みんな思いがあるし、一方でみんなスーパーマンでもありませんので限界もあります。その有限の力を上手に使うのが経営ですが、その肝心要な部分が福祉業界はどうやら弱いようなのです。これには経営者は労働者を搾取するものだというような先入観(つまり経営は無ければ無いほうが良いという理想)を持つ人が福祉の世界には多いと思われることや、そもそも福祉を目指そうという人はリーダーシップをとることに不慣れだったり消極的な人が多いこと、また福祉業界が○×がはっきりつくサービスではないため過剰な時間やエネルギーを費やしやすい点もあるように思います。

自分がどこまで有益なものが書けるかまだわかりません。またKaienという発達障害の支援しかしていませんので偏りがあります。しかしある程度、経営のイロハのようなものは分かりますし、8年間で福祉業界の経営が他の業界と違う点、特殊性も色々と感じています。税金をたくさん使っている業界ではありますが、厚労省や文科省が、福祉経営についてレクチャーをしてくれることはありません。非効率で効果の薄いサービスの要因が経営・管理だとしたらやはりそこに資するものは残しておきたいという風に思い始めました。

本シリーズでは下記について触れていきたいと思っています。

  1. はじめに
  2. 福祉事業の特殊性 お金まわり 事業規模 行政・制度との関係 働く人の特徴 イノベーション
  3. 福祉は儲けてよいのか? 福祉事業を経営する際の心構え
  4. 福祉における経営者とは? 戦略/人事教育(ヒト)/サービス(モノ)/財務(カネ)/マーケティング・オペレーション(チエ)/行政対応
  5. 社長の人間性 出来ないことだらけの自分の見つめ方・活かし方
  6. 管理職 組織・インパクトを大きくする方法

なお、同時に福祉の現場スタッフを目指す人向けにも別シリーズでコラムを書いていきます。そちらもぜひ覗いてみて下さい。

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年8月)

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