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福祉の支援者になりたい方へ ”知識と技術” – 事前に必要な知識 発達障害支援の現場から 第4章

前回までは”支援者としての心構え”としての精神論的な部分をまとめました。第4章は知識や技術についてです。

フロイトが活躍する前、つまり100年ほど前。ヨーロッパの知識では「人の心は体のように傷つく」ということは常識ではなかったと聞いたことがあります。それまでは悪魔とか呪いとかそういう知識だったのでしょう。身体の治療は長い年月をかけて医学として知識化・体系化されていたわけですが、精神や認知への治療法は「心も傷つく」という概念がなかったためにそれほど進まなかったのではないでしょうか。精神医学がここ1世紀急速に発達したのは心を傷つくものとして知識化した結果と考えることもできます。知識は重要ということですね。

発達障害の支援に使える知識というのはどういうものか?今回は特に初心者が何を知っていたほうが良い知識群をまとめます。

発達と障害 一丁目一番地は大事だけど…

発達障害の人の支援をするときに当然、「障害」や「発達障害」についての知識も必要となるでしょう。とはいっても、ここは支援をする上で一番気になる部分ではないでしょうか。診断名、その特徴、特性への対応、周囲の接し方。書店に行くと今や発達障害関連本は1コーナーになるほど多いですし、ネットでも競うように発達障害とは?発達障害の人の対策という記事を見かけます。

支援者を目指す方ならばここの部分は流し読みしていたとしてもそれなりに事前知識がある。あまり発達障害の一丁目一番地はこだわらず、次に進みましょう。

資源や制度 現場で出会う前に名前だけは覚えておきたい

医療や福祉の社会資源を知っておく必要もあります。このあたりはネットで情報が集めやすいところですが、社会福祉士でも取得しない限り制度全体を理解するのは難しいほど日本の医療福祉は複雑で大きなものですので、知らないといけない最低限を知るのがポイントです。

  • 医療系(精神科・心療内科の相違点、(児童)精神科医のタイプ、産業医、薬の種類と効用・副作用、デイケア、リワーク など)
  • 福祉系(保健所、児童相談所、障害福祉課、児童発達支援(療育、放デイ)、就労系サービス(自立訓練・移行・定着・A型・B型)、移動支援、生活支援、あわせて障害者手帳や障害年金、健康保険、雇用保険、傷病手当金 など)
  • 就労系(ハローワーク、地域若者サポートステーション、民間エージェント、障害者雇用制度 など)
  • 教育系(公立と私立の相違点、通級・支援級、特別支援学校、通信・サポート校、奨学金、ポスドク制度 など)

かいつまんでとリストアップしたところ、だいぶ長いものになってしまいましたが、上記のような理解は最低限必要になると思います。

一方で実際に対人支援をしないとどのタイミングでどのような知識が必要になるかはわかりづらいでしょう。知識を事前に蓄積するのは、本を読む前に辞典を読むようなもの。やはり現場で会いながら(本を読みながら)、先輩スタッフや本・ネットを確認する(確か辞書でこういうのを見たなと思って再度知識を確認する)ぐらいのペースが良いと思います。

社会の知識 自分が異質と気づけるか?

発達障害の方は自分だけで苦しむことは(感覚過敏など自然に影響を受けるところ以外は)ほとんどなく、他者や周辺との関係性、つまり社会性の中で困っています。このため社会に対する知識が最も重要だと私は考えています。具体的には当社の新入社員の研修動画だと下記がキーワードになっています。

  • 若者社会(最近の流行、デジタルネイティブ、SNS/ゲーム依存、通信サポート校など)
  • 働き方のトレンド(就職氷河期、業種・職種の盛衰、アルバイトの職種など)
  • 親子関係(虐待・ネグレクト、反抗期、ひとり親、貧困の連鎖 など)

社会の理解は自分の常識を疑うためにも必要です。

私がそれを強く感じたのはアメリカへの留学時代です。マーケティングの授業で印象的な考えに出会いました。その授業では60人ぐらいが参加していたのですが、教授から「この中で家に銃がある人はいますか?」という問いがありました。手を挙げた学生は3人。銃保有の権利主張が強いアメリカ人の他の学生からも驚きの声が上がったのですが、教授は「しかし実はあなた方のほうが普通じゃないです。全米では三分の2が保有している」という話をつづけました。つまり都会の大学院に来るような家庭は、多くの米国民と違う環境で育って、違う価値観を持っているということです。

マーケティングで当てはまることが支援でも丸々当てはまるはずです。

ついつい支援者は自分の人生を当たり前と思いがちです。どのような家庭に生まれ、どのように教育・しつけを受け、どのように働き、どのような周囲の人に囲まれながら、何を目標として過ごし、どのような制約を受けながら、老後を迎え、そして死んでいくのか。世代が違うと、人生に対する捉え方も違いますし、地域や家族によっても影響を受けます。

社会の流れを理解して、何が目の前にいる支援対象の人にとっての常識なのか。それを理解するうえでは自分の常識の羅針盤を整理し続け、生き物ともいえる”社会”の把握することがとても大事なのです。

 

【リンク】福祉の支援者になりたい方へ シリーズ目次

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2020年10月)

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都知事の「不要不急の外出自粛要請」について Kaienの今週末の対応と今後の判断基準

当社では、都知事の要請を踏まえ、首都圏で行われる今週末(3/28土曜、3/29日曜)のすべてのセッションを休止しました。

今回のコロナウイルス影響では、当社は「科学的に」「冷静に」「柔軟に」を対応の基本方針にしています。

「すでに市中感染が連鎖している以上、完全制圧はできない。クラスターを早期に発見して医療崩壊を防ぐことに協力するのが市民の役目だ」と、まずもって理解しています。

また会社としては、利用者や社員の健康を守りつつ、知らずに感染している可能性も踏まえて最大限の対策をする。具体的にはまずは免疫力をあげる工夫、在宅からのアクセスなどでの接触の減少、検温・咳症状や今日から取り上げられている味覚・嗅覚異常の確認、そして数十秒の手洗いを徹底すること。一方で、支援を継続する面でも、給与を支払い続けるためにも、可能な範囲で事業を継続することを考えています。

今回の都知事の要請。ある意味字義通りに反応して休所と決めました。

が、その後の報道などを通じて、「夜間や週末の外出自粛」の意図が、感染例の分析から、特に「夜の会食」や「不特定多数の歓楽」を回避することでのクラスター予防だということというのが徐々に分かってきました。実際、都からも放課後等デイサービスの事業者に下記のような連絡文が届いています。

今回は、都知事の発表当夜に休業を決め、案内を出したこともあり、当社の判断は覆りませんが、来週以降は「冷静に」対応をしていこうと思います。(つまり今の段階では、4月の週末は障害福祉サービスは対策を取ったうえで営業を再開しようと思っています。)

 

もちろん今後の感染拡大のペースによっては、都知事がおっしゃった「得体の知れない」状態からさらに発展してしまう可能性もあり、上記の通達が今後も生きるわけではないでしょう。そのため当社としても報道や情報ソースにしっかりと当たりながら「科学的に」「柔軟に」対応してまいります。連絡については利用者には直接メールなどで、そのほかの皆様にもウェブサイトやSNSを通じて発信していきます。

 

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役

長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴社長ブログ一覧

福祉の支援者になりたい方へ ”支援者としての心構え” – 資格を持つ意味 発達障害支援の現場から 第3章 第3節

前回は共感・傾聴という支援者としての姿勢をどう考えるかを発達障害支援の文脈でまとめました。今回も心構え編、「資格を保つ意味」について考えたいと思います。

こんなことをするために私は資格を取ったのでしょうか?

以前ある大学教授から聞いたお話です。

沖縄出身の学生がある北国の大学に入学しました。その学生発達障害の特性がありながら一人暮らしを続けていました。しかし秋が深まり冬が近づくにつれて、南国育ちの学生はみるみる元気がなくなってきました。支援者は「寒さに慣れていないのだろう」と思っていましたが、雪が降りしきったある日、もう堪らなくなったというように学生が支援室を訪れ「寒くて寒くて何も出来ない」と訴えました。よくよく聞くと、その学生は石油ストーブを購入しないといけないという発想がわかず、また購入したとしても使い方を教わらないと出来ない状態だったことがわかりました。そのことを上司に報告した時に、その支援者は「私は暖房器具の使い方を教えるために福祉の資格を取得したのでしょうか?」と問うたそうです。

これは実話をもとにしたお話です。福祉の世界に限らず、資格を活かして働くということ自体は悪いことではないと思います。が、資格を活かすこと自体が目的になり、支援をするということが逆に手段になってしまっているのには違和感を覚えざるを得ません。

上記の例で言えばもちろん支援者の仕事として暖房器具の意義や購入方法、使用方法を教えるのは発達障害の人に向けた支援の目的にかなったことであり、可能な限りしたほうがよく、その時に保有している資格などは関係ないということになるでしょう。活かせるときは活かせば良いでしょうが、目的にかなわないときはその知識を使わなくても良いこともあるわけです。

(実際私も経営学修士というMBAを取得していますが、普段の経営でMBAのことを意識することはほとんどありません。知識があって便利だなと思うことはありますし、時に頭の整理に役立つこともありますが、いつもではまったくないです。)

支援力向上+雇われやすさが資格保有の2大メリット

ただし資格を保つ意味はもちろん様々にあるでしょう。特に事業所の質を担保するために、一定程度の知識・経験を持った人を配置したい行政としては資格保有者を許認可の条件にすることは当然のことといえます。医療の世界ですと病院・クリニックだったら医師という資格保有者がいないと認められないですし、トラックやバス・タクシーなどの運輸・運送業は適正な免許をもった人がいないと事故を防げないでしょうし、飲食業界でも食品衛生責任者を置くことで消費者は安心感をもってレストランを利用できます。

福祉の世界でも、各事業所に最低一人は、精神保健福祉士や介護福祉士、社会福祉士、保育士など医療・福祉系の資格を持った人が求められています。人手不足が深刻な薬剤師や看護師ほどではないかもしれませんが、福祉も慢性的に資格保有者の人員確保が難しい業界です。自分の支援力を向上すること以外にも雇われやすいという意味で資格保有はやはりプラスになるでしょう。

資格の知識がマイナスになる場合は?

資格を得る過程で得た知識や物の見方は正しく身につければプラスになることばかりだとは思います。しかしいわゆる発達障害の人への支援の場合は少し注意が必要な資格があります。3つ例をあげます。

キャリアコンサルタント

2016年から国家資格になったキャリアコンサルタント。職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)に基づき、厚生労働大臣の登録を受けた登録試験機関が実施する国家資格試験です。Kaienの採用試験を受ける人でも取得している人が本当にたくさんいます。特に40・50歳代で自らが転職を考えている人が、これから人材関係の仕事に就きたいと思った時に取得しやすい資格のようなのです。

が、あくまで以下は私の印象ですが、キャリアコンサルタントの人は発達障害の支援にはじめ戸惑うことがあるようです。前提とされている考えに、コーチングに似た発想があるからかもしれません。

前回も書きましたが、発達障害の人は自分の考えを言語化する、つまり見えないものを捉えるのが苦手です。Wikipediaから引用するとコーチングは「対話によって相手の自己実現や目標達成を図る技術であるとされる。相手の話をよく聴き、感じたことを伝えて承認し、質問することで、自発的な行動を促すとするコミュニケーション技法」であり、支援を受ける側が自発的に言葉で自分の気持ちや考えを整理していく必要があります。発達障害の人は、言葉の定義や捉え方が独特だったり、選択肢がない自由記述式の質問だと上手に整理できないことが多めです。このため支援を受ける人の状態・力を考えた上で、キャリアコンサルタントのノウハウだけを使ったほうが福祉の世界では良さそうです。

臨床心理士

たまたまですが臨床心理士も最近国家資格化が決まったものです。大学院を修了するなど要件が厳しいため、学問・勉強の出来る人が多いなというのが印象です。臨床心理も一歩間違うと発達障害とズレが生じやすい前提をもっているものかもしれません。

というのも臨床心理士は「こころ」の専門家と言って良いと思いますが、発達障害の場合は後天的な人生の中での歪みでの心のズレというよりも、先天的に物事の処理が違うために多数派と違う情報の捉え方をしたり情報が混沌としてしまったりするものだと思われるからです。スパゲティのように絡まった情報を解きほぐす支援はいわば心の支援というよりも情報の整理であり、臨床心理士の人が得意な心の奥底まで階段を降りていくような作業と違う場面も多数あります。

もちろんしっかりと勉強した方が多いので臨床心理の方でこの辺りを使い分けられている方が多いとは思いますが、どうしても癖として心を見に行きたい人が多いのが臨床心理の人だというのは自他ともに知っておいたほうが良い癖だと思います。

教師

最近制度の変更やその運用解釈が大きく動いている放課後等デイサービスでは教員免許を持った人が資格者として受け入れられやすくなってきました。今後、教員免許の保有者が福祉の世界に増えてくることが予想されています。ただ教師も発達障害的にややズレが生じるケースが有るなと私は感じています。もちろんこれまで挙げた例と一緒で、教師についても、教師の資格自体が福祉、特に発達障害の支援にじゃまになるというわけではありません。しかしちょっと間違いやすい時があるということです。

特に高校までの学校教育一般に言えるものとして、本人の力を信じて底上げをしていくという思想があります。(なお、大学以上の高等教育は、学位というハードルを飛び越えられるかどうかという視点が強く、ご本人の能力底上げが第一に来るわけではありません。大学の教官には冷徹な評価者としての目線が強いと思います。このあたりを取り間違うと、発達障害の傾向のある学生の合理的配慮の主張で食い違いが起こりやすくなります。)

「もっと集中すれば」、「もっと意欲を持てば」、「Aが出来るなら、Bも出来るはず」など、子どもの力の底上げに熱心な小中高の先生ほど、本人の凸凹に気づかず、無理をさせてしまう可能性があります。悪意がないからこそ、なかなか先生自身がずれに気づきづらいのです。発達障害の子どもを何人も見て失敗経験を経て、ようやく人には凸凹があり、限界も多いのだという、先生としては信じている教義みたいなものを一部修正する必要があり、辛いものでもあるとは思いますが、特に発達障害支援の現場では教師の資格(というよりも教師を目指す上で根底にありがちな思考パターン)はせっかくの支援への情熱をマイナス面に変えかねません。

(このあたりは部下を管理する上司としても同じ穴のむじなだなと自認するので本当に偉そうなことはいえませんが・・・)

次回

資格を取得のためにかける数年のエネルギーや得られた知識は無くなるものではなく、支援の力になるものです。ただ発達障害支援という一面だけを見ていても、プラスになりやすい資格や、プラスにはなるけれどももっている知識を使う場面を気をつけないといけない資格など、万能ではないということをお伝えしたかったわけです。正直な所、自社で専門性を育むのは至難の業だなぁとここ数年感じます。福祉の世界に入る前に数年かけて資格試験に望み知識を体系化してくれるとより高い確率で福祉の職人になれるようです。

次回は福祉とは関係ない業界からこの世界に入る人に、自らの経験も踏まえて、これまでの常識・心構えがむしろ福祉業界で希少価値を持つ部分や、ここは変えた方が良いだろうなという部分を解説していきたいと思います。

【次回】事前に必要な知識

【リンク】福祉の支援者になりたい方へ シリーズ目次

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年10月)

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福祉の経営者を目指す方へ ”福祉事業の特殊性” ‐ 行政・制度との関係 発達障害支援会社の創業・経営を通じて 第2章 第3節

福祉事業の経営を考えている方への本シリーズ。”福祉の特殊性”の第3回。「行政・制度との関係」を考えてみたいと思います。

【参考】”福祉事業の特殊性” ‐ お金まわり
【参考”福祉事業の特殊性” – 事業規模

福祉の週刊実話

こんなことを書くと行政に喧嘩を売っているのかと思われるかもしれません。たしかに担当者が読まれたら良い気はしないとは思いますが、福祉の経営をしていれば、このぐらいのことはあるよということは知っておいてほしいのです。当社の実例をあげますが、そのままだと流石に恥ずかしいところ、あるいは関係者にご迷惑がかかる可能性もあり、少し脚色します。

実話① 要件が足りない?

A市でサービス管理責任者として認められていた当社スタッフを、B市の事業所に異動させようとしたときのことです。A市で問題ないと言われていた”直接支援”の過去の実務がB市では認められないかも知れない、といって騒いだことがありました。最終的には認めてもらえたのですが、行政(都道府県/政令指定都市など認可を出す自治体)によって解釈に違いがあることは理解しておいたほうが良いでしょう。

実話② 経験年月の計算方法が違う?

こちらも行政によっての違いがある可能性があります。例えば、昨今様々に喧しい放課後等デイサービス。「児童指導員」や「障害福祉サービスに2年以上従事したもの」の配置が必要になります。当社もルール変更に適応しようとしたところ、以下のような違いが行政であることがわかりました。

例)障害福祉サービスに従事した2年間の解釈について

  • Aさん 週2日(年72日)×5年=360日
  • Bさん 週5日(年180日)×2年=360日

Aさんは”非常勤”で働いていたスタッフ。が、通算2年以上は従事していますし、福祉業界では標準である1年の経験=180日という意味でも360日(つまり実質2年分)の実働があるパターンです。Bさんは勤務開始後2年であり、”常勤職員”であるため実働360日に到達しているパターンです。

本来これは全国的に統一してほしいところですが、どうやら東京都は、Aさんは×、Bさんは◯、という解釈。一方で神奈川や埼玉・千葉はAさんもBさんも◯という解釈であることが先ごろわかりました。つまり東京都ですと非常勤で働いていた期間は障害福祉サービスに従事したことにはならないらしいのです。

放課後等デイサービスではAさんのような働き方をしている人は多数いるはずで、様々な事業所でも来年(2018年)4月以降のルール変更に合わせてスタッフを拡充していると思いますが、こうした細かな解釈は問い合わせないとわからない部分があります。当社はたまたま先に知り得たから良かったのですが、ルール変更後に気づいたらそもそも事業運営が出来ないということにもなりかねません。都内の他の事業所でこのルールに抵触しているところはかなりあるはずで、事業の継続が心配されます。

実話③ 実は違法建築?

行政対応と言っても福祉関係だけではありません。建築や消防も福祉事業ではかなりご厄介になる行政です。

世の中には案外違法な建築が多いのです。始めから違法になっていることはないのですが、テナントが入れ替わりするうちに、実は今の状態は違法であるという建築が多くあります。当社が入ろうとした某物件では、「建築当時は駐車場だったところにドラッグストアが入っていますよね。この場合、適応する法令が変わってきて…」と違法状態になっていることを一級建築士の方に指摘されたため、急遽契約手続きをストップしたことがありました。このあたりは不動産業者も気づかなかったところで、適した専門家に聞いておかないと後で事業継続できないということにもなりかねません。

実話④ 用途変更はしている?

その他、100㎡以上で福祉事業をしようとするときは建築基準法で『用途変更』をしないといけないのですが、この100㎡の解釈も各行政によって異なりますし、用途変更がない場合も、バリアフリー条例が関係してきて(発達障害専門であるにも関わらず)オストメイトのトイレが必須であると指摘してきた建築課もありました。(※バリアフリー条例の過度な適応については、小規模保育園などの事業拡大に足かせになることから、東京都都市整備局部長からの文書で適応除外の具体例が示され、福祉事業全体にとってかなり常識的に動ける環境にはなっています。)

実話⑤ 自火報(自動火災報知機)はついている?

また消防から自動火災報知機が福祉事業に適合したものになっていないのではないかと指摘されて、300万円をかけてビル全部の自動火災報知機を交換したということも、恥ずかしながら過去の当社事例です。このあたりは、1階だったら…、3・4階なら…、階段が屋外だったら…、などと細かい規制で、消防の担当者も間違って理解していることもあり、「さっき署に来てもらってお伝えした内容ですが、違うことをお伝えしてしまったかもしれませんので、もう一度確認しても良いですか?」などと消防から電話がかかってくることもあるほどです。

帽子を自分の頭に合わせるのではなく、帽子に合わせて自分の頭を削りなさい

じゃあ、どうすればよいのかということになります。まずは、福祉事業を営もうとしたら行政へ連絡は頻繁に蜜にすることをお勧めします。それでも指定が降りるべき日に新たな条件を提示されるということもあるほどです(涙)実際、今月営業開始した事業所も指定予定当日に新条件が提示され1週間以内の対応を求められ焦りました。

行政の悪口をいうことはいくらでも出来ます。でも税金が投下され、とにかく法令に合わせて動かないといけないのが福祉事業です。お上の言うことが正しいわけではないですが、従わないといけないのは確かです。私が経営をするときに、「行政からお金をもらうならば、”帽子を自分の頭に合わせるのではなく、帽子に合わせて自分の頭を削りなさい”」というアドバイスを受けました。本当はこうじゃない!、自分はこうやりたい!、こうした方が誰にとってもプラスだ!、と息巻いても事業が開始できませんので、魂を売らない程度に自分の頭を削る必要があるでしょう。

いずれにせよ、福祉の法令はともかく、建築基準法や消防法はかなり難解で専門家の助けを借りたほうが良いと思います。特に建築士の先生は福祉に詳しい方に相談されることをお勧めします。当社は建築再構企画さんにお世話になっています。

 

【リンク】福祉の経営者を目指す方へ 目次

 

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年9月)

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福祉の支援者になりたい方へ ”支援者としての心構え” – 共感・傾聴は必要か? 発達障害支援の現場から 第3章 第2節

前回(二人分泳ぐ 小異を捨てて大同につく)は福祉によくある話を考えながら、福祉の支援者を目指す方に心構えとして持っておいてほしい、気にかけておいてほしいことをまとめました。今回は当社の事業分野である発達障害支援について掘り下げていきたいと思います。

共感・傾聴と発達障害の相性

この点については誤解を生じやすいと思いますので、丁寧にお伝えしていきます。まずもって、私が「共感・傾聴が不要」と思っているわけではないということはご理解ください。でも巷で言われているような「共感・傾聴が第一」だったり、「共感・傾聴の姿勢を見せろ」というような文脈での「共感・傾聴」は、発達障害の支援では間違う可能性がありますよということです。

サービスを提供するということは「結果を出す」ことが目的だと私は思っています。福祉の中で「共感・傾聴」をしてほしい、つまりそれ自体が目的だという利用者がいないわけではないと思います。実際、福祉や心理学に頼ってくる人には、自分の苦しみや悩みを共有してほしい、わかってほしいということを強く感じている人がいるのも確かだと思います。でもそれが全てではないと思うわけです。例外の筆頭にあげられるのが発達障害だと思われます。

発達障害の人と支援者として接し始めて、まず感じたのが、具体的な回答を求めてくるところでした。まるで世の中には、質問・疑問があったら必ず答えがあるというような前提で、ただお話をするということに価値を見出しづらいようなのです。話す目的ははっきりしていて、答えがあるのか無いのか、あるならどういうものが答えなのかを知りたい性分に駆られた人が多いと言いましょうか。そういう発達障害傾向の大人と会う一方で、福祉分野の人から「共感・傾聴」というキーワードを聞いたわけです。その時の私の結論が、「もちろん共感・傾聴も広い意味では必要だけれども、この人達はただ単に聞いてほしいわけではない。答えを求めている」と言うものでした。

違う言い方をすると、「話を聞いてもらうだけで半分ぐらい問題が解決する」可能性がないのが発達障害的な悩みだと思われますし、「話している中で自分の中から答えが見つかる」というようなものでもないのが発達障害の人向けの支援だと思われます。そうではなくて、支援の中でその人の状況(現在位置)とゴールと道筋と次のステップを伝えるのが発達障害支援で必要な技ですし、そのような「カーナビゲーション的な支援がはまる」という心構えを持っていてほしいということになります。

車の運転は疑似発達障害!?

車の運転というのは、同時並行が多く、瞬時に判断することが多く、感覚で理解しないといけないことが多く、発達障害の人が特に苦手とするところです。実は、いわゆる”健常者”も、同時並行や即時対応のために、普段よりも運転時は注意力を上げる必要があり、発達障害を擬似体験しているとも言えます。その時に、「運転の時って前後左右に注意したりしないといけないから大変ですよねぇ、共感できます」とか、「次に何が起こるか予想がつかなくてお辛そうですね、もっとその苦しみをお話してくれますか?」と言われても、「そんなのどうでも良いから、次右行けばよいか、道なりでよいかを教えてくれ!」となると思います。

上記の例は極端ですけれども、発達障害の人は共感や傾聴だけでは駄目で、カーナビのように、今どこにいるか、どこが目標地点なのか、ルートはどういうものがあって、どう理由でそのルートが推奨され、そのルートを選んだ場合次はどうすれば良いか(スモールステップ)、を伝えてあげることがハマりやすいのは、なんとなくお分かりいただけたのではないでしょうか。

当社の別の言い方をすると、「発達障害は心の病ではなく、情報の混乱状態」ですので、心の底に共感・傾聴するよりも、情報を紐解いてあげることが支援になるというわけです。もちろん、当社に登録している大人の発達障害の半分程度の方が、二次障害として心の病を抱えていますので、現実の支援の現場では「カーナビ」的支援だけではなく、「共感・傾聴」も当然必要になってきます。が、発達障害の支援現場に入る時に「共感・傾聴」は万能ではなく、場合によっては空振りすることは、支援のベースとして十分に理解していただきたいと思います。

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さてさて、それなりの文量になりましたので、前回予告していた内容で書ききれない部分は次回に回します。「支援者の心構え」の章はだいぶ長くなりそうです…。

【次回】資格を持つ意味

【リンク】福祉の支援者になりたい方へ シリーズ目次

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年9月)

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福祉の経営者を目指す方へ ”福祉事業の特殊性” ‐ 中小零細が支える業界 発達障害支援会社の創業・経営を通じて 第2章 第2節

福祉事業の経営を考えている方への本シリーズ。前回は福祉業界での「お金まわり」の特徴をまとめました。今回は”福祉の特殊性”の続きで「企業・団体の大きさ」を考えてみたいと思います。

【参考】”福祉事業の特殊性” ‐ お金まわり

小さい組織が生き残りやすい

福祉は小さな企業・団体が多いことが特徴です。これは今後も大きくは変わらないでしょう。福祉全体で見ると数兆円の巨大産業でありながら、大きな社会福祉法人・企業でも従業員が1,000人(売上としては100億円/年ぐらいでしょうか)を越えているところは稀です。この業界で大きいと言ってもせいぜい百人から百人規模(年間売上10億から数十億円)。事業者の多くは数十人の小所帯で売上も数千万円から数億円程度だと思われます。

少し経営書を読んだことがある方は知っているかもしれませんが、独占(1社のみが勝ち残る)や寡占(複数)が進みやすいか、あるいは少数の事業所が生き残りやすいかは、扱っている商品やサービスや消費者の好みによってだいぶ異なります。福祉は中でも小規模事業者が生き残りやすい業界と言えるでしょう。

小規模事業所が生き残りやすい業種として私が例に挙げるのが、外食産業です。牛丼チェーンや居酒屋チェーンの中でのシェア争いなどのニュースを日々目にしていると、日本の外食産業は一部の大きな事業者しか生き残れないのではないかと思ってしまうこともあるかもしれません。しかし私が以前習ったことは、日本で最大のシェアを持っているのはマクドナルド。でもそれは外食全体の1%もない、というものでした。もちろん大きな会社になったほうが、食材の購入が一括でできますので1店あたりのコストが下がりやすく、ノウハウなどの標準化もレベルアップする可能性が高く、より快適なサービスが提供できたり、安定してメニューが提供できるかもしれません。

ところが、一般的に消費者は毎日同じものを食べたいわけではなく違うものが食べたいと思うでしょうし、食に対する嗜好は一人ひとり違うわけですので、一つの大きなレストランチェーンが日本の外食市場を牛耳るのはなかなか難しいことです。(ですので、同じグループ会社でも違うブランド名で営業をすることが一般的ではありますが、それでも次々に新しい個性的なレストランが生まれてきます。)つまりソフトウェアの業界のようにウインドウズがOSを支配したら他のOSは自然と淘汰されるという業界とは大きく違います。

福祉も似たようなもので、数兆円の規模の市場を数社で占めることになるとは考えづらいところがあります。もともと社会福祉法人が地域に根づいていること。規模を大きくしても会社として共有できる部分が少なく「規模の経済」が効きづらい点。むしろ会社の売上が大きくなるほど利益率が低下しやすい「規模の不経済」の側面すらあり、小さい事業所に付け入る好きが大きいなどがあると思われます。(採用や集客は会社が大きくなるとメリットが大きいでしょう。一方で組織が大きくなると質が下がりやすく、個性のある支援がしづらくなり、地域ごとのニーズに寄り添いづらくなってしまって、かえって競争力が落ちてしまう可能性があります)。 

【参考】介護業界のランキング、シェア

適正な企業のサイズは?

つまり小回りを活かせる部分が福祉ではプラスに働くことが多くあります。福祉の場合は、多くの業界のように営業成績(売上の多さ・少なさ)で社員間で優劣がつくわけでもなく、やや似ている学習塾のように合格者数の多さや向上させた点数によって優劣がつくわけでもなく、もっと大きな人生に寄り添う仕事であるため、「優良」とされる軸が個々人によってぶれがちです。一人ひとりの福祉へのこだわりを上手に整える時に組織の大きさはむしろ仇になる可能性があり、小さく経営層から現場まで一体であるからこそ心や魂を込めたサポートができる可能性が高まるでしょう。

またこれからの時代、対人サービスの場合は個性が重要になってくることは明らかです。大きくなりつつ、事業所ごとのユニークさを出すということもできると思いますが、どの企業もできるものではありません。どうしても大きくなると個性がなくなる傾向があります。たとえば当社も大きくしようとすると、発達障害×仕事×長所の活用 という事業ドメインの制約を取り払って、違うカテゴリーのサービスにも展開していかないといけないかもしれません。福祉をやりたかったはずなのに、「一体何屋さんになるのですか?」という状態になってしまう可能性があります。内部の社員も頭に”?”が浮かぶと思いますし、せっかく個性を好んで自社を選んでくれたお客様も離れていってしまう可能性が高まります。

ただし小さすぎると安定性を欠きます。福祉の場合は行政のルールに基づいているため、一定程度の資格者が必要だったり、一定程度のオフィスが必要だったりと、最低限必要とされるヒト・モノが決められています。つまり経営が傾いたからオフィスを小さくするとか、社員をリストラするといった、コストを切り詰める対策ができづらい点があります。また大きな企業ですと資格者を一定数は組織内で雇うことができる(バックアップの人材をおいておける)可能性がありますが、1事業所しか無いような小さな組織だと誰かが辞めると代わりがいない、その瞬間事業継続が難しくなる(取り消しになったり、大きな減算になったり)ことが考えられるでしょう。つまり安定的に組織を運営させるためには小さければ小さいほうが良いということではありません。

結局、他の事業と一緒になってしまうかもしれませんが、福祉事業をする場合の企業の規模は経営者が気持ちのよい、安心できる程度の規模にしていくということが正しいと思われます。なおこれは福祉事業を新たに起こす新米経営者目線であり、すでに他の事業でしっかりと経営基盤がある人が福祉業界に新規参入する場合はまた違ったバランスや文脈で事業規模を定義していくのだと思います。

いずれにせよ、福祉事業は特段大きな初期投資が必要とされず、行政のルールに当てはまってさえいれば参入はし易い上に、業界全体として小規模事業所が活躍しやすいということです。何か対人サービスで社会に貢献したい、事業体を経営したいという人には、うってつけの業界なのかもしれません。

【リンク】福祉の経営者を目指す方へ 目次

 

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年9月)

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福祉の支援者になりたい方へ ”支援者としての心構え” – 二人分泳げること 発達障害支援の現場から 第3章 第1節

福祉の世界に入った時に私が一番ショックを受けたのは、職業人としての心構えが他の業界とだいぶ違うというものです。多くの会社では常識とされているものが福祉の世界では非常識だったり、その逆もたくさんあります。当社は福祉の出身者が3割程度、残りは違う業界から集まっていますので、文化を一致させることにいつも困難が有ります。今後、福祉の世界が、とりわけ発達障害や就労支援の現場では、福祉の常識にとらわれない支援が必要になり、心構えも新しい考えが必要になってくるでしょう。今回は当社が考える支援者としての心構えをまとめていきます。

二人分泳げること

当社では社員の行動指針を決めています。健康/真摯/多彩/現場の声/明日の常識 という5つのキーワードです。なかでも”健康”が最初に来るのは理由があります。それは福祉の支援にいる人に健康でない人が多いという事実です。

共依存(きょういぞん)という言葉をご存知でしょうか。自分への評価が低いため、他人から求められることで心の隙間を埋めることです。自分が無くてはならない存在にさせる(依存させる)ことで自分の安定が得られるため、結局は自己都合で自分にとっても他者にとっても望ましい結果にはなりません。残念ながら福祉の支援者にはこの共依存に陥りがちな人が多く、つまり自己肯定感・自尊心が低い人が多く、問題になりがちです。

どう問題になるかというと、支援を途中で投げ出し、辞めてしまう例が多いということです。福祉は低賃金のため離職率が高い、きつい労働のため他の業界に流れるという側面も否定はできません。ただし私はそもそも共依存になりやすいタイプの人が福祉には多くて、自分一人分の人生をおくりきれていないために、離転職が多いのだと思っています。結局誰のためにもなりません。

【参考】 行動指針

当社の言葉で言うと「二人分泳げる必要がある」と思っています。いまの世の中、まず自分が自分らしく生きることはなかなか難しいことであり、つまり自分一人分泳ぐことで精一杯ということは十分に理解できます。ただ支援をしたいのであれば、自分の人生だけではなく他人の人生も一定程度背負うわけですから、もう一人分は泳げる精神や身体の余力・健康度が必要になるわけです。

これは福祉だけではなく、社会貢献が高い業界には有りがちだと私は思っています。自分の不全感を埋めるために人の役に立ちたいという若者にたくさん会ってきました。ただ私は、もっとも重要な社会貢献は「他人に迷惑をかけず自分の人生を送ること」だと思っています。この第一の社会貢献をできる人が、はじめて第二の社会貢献である「他人の人生に貢献する」ことができると思っています。

小異を捨てて大同につく

資本主義・営利企業の目標は明確です。お金を稼ぐことです。「いやいや、会社も社会の公器であり、社会貢献が企業の役割」という方もいるでしょうし、私もその考えに共感しますが、営利企業というのはやはりお金を稼いでなんぼであり、それが出来た上でそれ以外の役割や目標が正当化されることは否定しきれない資本主義の根幹だと思います。つまりどんな企業であっても「お金を稼ぐ」という共通目標が立てられるわけで、組織に所属する以上そこから大きく外れることは出来ません。

これはとても大きな制約ではありますが、一方で多少の違いを乗り越えて、組織がまとまりやすいともいえます。いくらいい意見をいっても、素晴らしい行動をしても、お金につながらないと、組織が続かないのです。結果を測る物差しが明確であることは、組織を束ねる求心力になります。

一方で、福祉はなかなか共通の指標が見えづらい業界です。「人生を楽しくおくってもらう」とか「人間らしい生活をしてもらう」とか、みんなが賛成する目標があるではないかと思われるかもしれません。しかしこれらは数字など明確に大小が示しづらく、共通の指標にはなりづらいと思われます。

実際、福祉の現場では、「これは間違い」という支援は有りますが、多くの場合は「正解の支援はなく」、「いくつかの支援の選択肢があり得る」場面です。例えば、発達障害の特性でどうしても多動が収まらず、椅子に座っていられない、このため勉強がはかどらないお子さんがいるとします。お薬で多動を抑えるという方法もあるかもしれませんし、勉強の中に本人が好きなものを取り入れて集中力をできる限り上げる方法もあると思いますし、アメとムチでいうとムチを多めにして強引にでも座らせるというのも最終的にはご本人にプラスになるという支援者もいるかもしれません。あるいはそもそも勉強を頑張らせないでも良い、この子はこの子の生き方があるという考えもあるでしょうし、動き回った中で勉強をできるような仕組み(例えば立ちながら歩きながら勉強をするような治具を取り入れる)もあるでしょう。どれも絶対に間違いとは言い切れず、支援としては状況に応じてどれもありかもしれません。

複数の解釈があり得ると、組織はバラバラになりますし、支援の方向性もずれが生じがちです。支援を受ける側にもマイナスにもなりますが、支援者の方でも不協和音になりやすくなるでしょう。最終的には、「やっぱりあいつとは一緒に支援ができない」、「この組織は自分には向いていない」と離転職が多くなってしまう可能性もあります。大体の方向性や想いは一緒なのに、細かなところで一致できず、という場面は私自身色々と見てきました。

現場の支援者が自分の考えを持ち、貫くことはとても大事ですが、やはり同じ方針で、同じ解釈で支援をすることの大きな果実を支援者には忘れてほしくないということです。組織である以上は、自分の意見は持ちつつも、最終的には組織で大切にしていることを理解し、その思想の中で支援の解をさぐるという癖を従業員としては持つ必要があるでしょう。

福祉は数日で結果が出ることは少なく、多くは年月が必要とされます。数年単位で結果がうっすら見えてくる世界ですので、より支援方法や方向性のすり合わせが難しくなってきます。私は決して自分の考えを押し殺して組織のルールに従えと行っているわけではありません。しかし小さな違いで自分が正しいということだけを行っている支援者だと誰も最終的には得をしないと思っているということです。組織で支援をする以上は議論を繰り返す中で自分の意見と組織の考えをなじませていくのが理想です。小異を捨てて大同につく。これが福祉の組織で働くためには必要だと思っています。

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少し長くなりましたので、「福祉の支援者としての心構え」は記事を分けて2回で述べることにしました。次回は下記をお話していきます。今回は「福祉全体」に当てはまるところでしたが、次回は「発達障害支援」の時に特に必要と思われる点について述べていきたいと思います。

【次回】共感・傾聴は必要か?
【次回】資格を持つ意味

【リンク】福祉の支援者になりたい方へ シリーズ目次

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年9月)

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福祉の経営者を目指す方へ ”福祉事業の特殊性” ‐ お金まわり 発達障害支援会社の創業・経営を通じて 第2章 第1節

法人を立ち上げ、経営していく時に注意しないといけないことは山ほどあります。それのチェック項目を論理的に捉えることも出来ますし、より感覚的に捉える方法もあるでしょう。最終的にビジネスというのは勝てば官軍負ければ賊軍というところは否めず、うまくいっている経営者が大手を振れるのですが、そうはいっても幾つか気をつけたほうが良いところは共通しています。このシリーズでは個人的な意見は述べながらも、基本的には誰もが反対しない基礎の基礎をまとめていきます。(ただし網羅的に書くことが目的ではないので抜け漏れや偏りはあることはご承知おきください。)

どの業界も特殊といえば特殊ですが、福祉業界は国・地方自治体の法令やその運用方針に大きく影響を受けますので、経営者としてその独自性を理解しておく必要があります。また行政だけではなく、利用する人、働く人など、福祉事業には門外漢だった私からすると、不思議さ意外さが満載の業界でもあります。あまりMBA(経営学修士)でも学ばないレベルのことに目を配っていないと行けないのは当初は気づけていませんでした。

この第2章では、お金の回り方、自社らしさと同業他社との関係、働く人の特徴(現場と組織運営)、利用者との関係性、リスク管理などから福祉業界を考えていきましょう。

なぜ”営利企業”が福祉をできるのか?

日本での福祉は、行政と社会福祉法人が長年担ってきました。徐々にその時の現状を受け入れる形で法令も整備され、地域ごとに社会福祉法人が育つことで福祉の底上げが図られてきたと思います。国が順調で経済が伸びている間や働ける若者が国の厚生の大部分を占めるうちはそれでよかったのかもしれませんが、徐々に経済力が落ち、また労働者が少なく支えられるべき高齢者などが増える段階になって、これまでと違う発想で福祉を運営しようという流れになりました。それが障害福祉で言うと、小泉政権下で行われた障害者自立支援法(今の障害者総合支援法)の導入であり、民間の力を入れて、また市場原理を入れて、福祉を効率的に効果的にしていこうという流れです。長くなりましたが、このような背景で当社のような株式会社が福祉の業界に入ることが出来たわけであり、福祉事業体の経営というのはまだまだ日が浅い、10数年程度の長さでしか無いことがわかります。

とはいえ、営利企業が国や地方自治体からお金を受け取るのはそれほど珍しいことではありません。例えば建設業界は公共事業を国土交通省などから受注して道路や橋を建設しているわけですが、それによって利益を上げていることにあまり異を唱える人を見たことがありません。あまりにも当たり前になったからでしょうか。もちろん建設業界は民間の建物も受注していますが、土木といわれる公共事業からの売上は数割はあることが一般的です。(かつほとんどのゼネコンは資本主義の中枢である上場企業です。)

ですので営利企業として福祉をすることをそれほど特殊に考えなくて良いでしょう。道路や橋の工事と同じく適正な利益であれば社会は受け入れてくれますし、もっと重要なのは道路や橋が安全を提供しているように、福祉が国民に安全を提供する、結果を残していくことなのだと思います。

公費に頼る事情

ただ福祉事業体は売上のほとんどを公費に頼っていることは事実です。現に当社もそうですし、障害福祉業界のガリバーとも言えるリタリコ社(上場しているので財務諸表で中身はかなりわかります)も売上のほとんどはまだ公費に頼っており、福祉で稼いだお金を使い、上場で資金を手にすることで、福祉以外の事業を育てようと頑張っていることがわかります。

なぜ福祉は公費に頼らないといけないのか。答えは明白で、受益者と呼ばれる人たちがお金がないことが圧倒的に多いからでしょう。当社の例でも、発達障害の人の就労支援をする際に、仕事がない人をサポートするわけですから、当然ご本人たちにサービスを利用する経済的な力がないことがほとんどになります。特に障害福祉は保険制度がない(このあたりはややこんがりやすいですし、シリーズの中で今後触れられたら触れます)ために、税金に多くを頼る構造にならざるを得ないといえます。

このため、福祉事業をする上では、行政との付き合いは必須ですし、法律が変わったり、運用方針が変わったりすると、売上に大きく影響を受ける事業です。”公共事業”に頼る業界の中でも、その割合が高いことは意識しておく必要があります。福祉をする事業所が、当社もそうですが、福祉以外の事業を育てたいと思うのはごく自然な流れです。当社もガクプロという大学生向けのセッションを行っています。これは「発達障害(含・傾向)の学生向けの内定塾」であり、100%親御様からお代を頂いていますので、福祉予算とは切り離されたビジネスです。とはいえ、利益を出せているかというとそうでもないのですが・・・。

では福祉事業は危ないかというとそんなことはありません。全く逆と言えましょう。例えば介護事業を行っている営利企業というと、ニチイ学館、ベネッセ、損保ジャパン、セコム、パナソニック、イオンなど、錚々たる企業群が運営しています。残念ながらという面もあるかもしれませんが、生活に困っただったり、支援が必要になったりする人は、一定数社会には存在し、その割合は今後高くなることが容易に予想されますので、ある意味安定した業界でもあるということです。このため、事業の安定性と成長性、それからブランドイメージ向上に魅力を感じた有名な企業が参入してくるわけです。問題なのは、福祉事業の一本足打法になっている場合であり、それは福祉をしたい!という小規模事業所の性でもありましょう。当社も例外ではないのです。福祉事業がなくなること自体は考えにくいですが、お上の考え一つで、利益率が減ったり、既存のスタッフや施設では運営が難しくなる場合があるリスクは常にあります。

まとめますと、営利企業が公費をもらう事業をするのは特に悪いことではなく結果が何より重要であること、売上の見込みとしては安定した公費を頼れるが、行政の方針一つで事業計画の大きな変更を迫られる場合があるということになります。

お金の回り方については、経営の肝でもありますので、今後の章でも度々触れていくと思います。

【リンク】福祉の経営者を目指す方へ 目次

 

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年9月)

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福祉の支援者になりたい方へ ”発達障害の魅力” 発達障害支援の現場から 第2章

仕事をする上で対象への興味・関心は重要です。野球選手ならば野球が好きでなければその道を目指さなかったでしょうし、 ピアニストであればピアノへの愛情はもちろんあるでしょう。発達障害の支援、福祉である場合も同様です。対象への興味関心は必要ですし、仕事をする上でのモチベーションの一つの源泉になってくると思います。

私はこの仕事始めて以来、会う人の大半が、発達障害の診断を受けたり、傾向が強い人たちです。発達障害自体に魅力を感じていないと、とても毎日を平穏な気持ちで過ごせないでしょう。当社も含め「発達障害の強み」と言ってしまいますが、発達障害の人の強みは論理的思考とか、発想力の豊かさ、プログラマーとか会計士に向いているとかよりも、もっと根源的な人間性の魅力にあるというのが私の考えです。

発達障害の良さはいくつもありますが、ここでは手を抜かないこと、正直であること、個性的であることの三つを挙げていきます。

手を抜かないこと

中には失敗が重なりすぎて自暴自棄になったり、やる気が何にも起きずに無為に日々を送っている当事者に会うこともあります。でも本質は何事に対しても一生懸命であるというところは尊敬に値するところです。何に一生懸命であるかというとほとんど全てです。多くの(発達障害ではない、あるいは傾向がほとんどない)人は何気なくできるようなことでも、発達障害の人は懸命にしないと出来ないこともあります。例えば朝の身支度でも気を抜かないようにしないと抜け漏れがでてしまう人もいます。仕事でも勘が悪かったり遅かったりするかもしれませんが本人が持つ力の全てを出していることがほとんどです。空気を読めないようなことを言ったとしても、本人としては相手を慮った上で発言したものであることが多いでしょう。結果にはつながらないことが多いながらも手を抜かないという根っこの部分は支援者として信じてあげたいですし、魅力に感じるところです。

間違えやすいのが、集中力が切れて話を聞いている途中で居眠りをしてしまったり、視線が合わなかったり姿勢が悪かったりでやる気が無いように思われてしまうところです。本当は手を抜くことがないはずなのですが、学習態度や作業態度が悪い、つまり手を抜いていると思われることがあるのですが、集中しすぎてかえって疲れてしまったり、障害特性上、本人の意識とは裏腹に集中がガクンと落ちてしまうことがあることは知っておくと良いでしょう。(このあたりは本シリーズの知識編で触れると思います。)

正直であること

二つ目が正直であること、換言すれば嘘をつけないことです。嘘をつけなすぎることで人間関係が悪くなったり、業務の中で損をすることは数しれないのが多くの発達障害の人の人生です。しかし嘘に塗り固められて、自分自身がなんだかわからなくなっていたり、他人からの視線を気にして普通という大きな流れにいることで、自分自身の人生がなんとなく進んでいるという多くの人に比べると、普通の人生を送りづらいものの、自分の感情や気持ちに正直に動けている発達障害的な生き方は尊敬すべき面が大きいなと思わされます。もちろんそこには後から考えると言わなければよかったなということを言ってしまうような想像性の弱さや衝動の強さがあったりするわけですが(ここも知識編で触れることになります)、自分にも他人にも嘘をつけず、まっすぐ人生を歩いて行く様は清々しさを感じます。

個性的であること

最後の一つは見ていて一緒にいて飽きないということでしょうか。発想も目のつけどころもユニークですので、発達障害の傾向がある人達の発言の中には「なるほどな」と思わせられること、「そういう見方もあるのね」ということがとても多いです。既にあげた、一生懸命生きていて、かつ正直であるからこそ、個性的な発言や行動、考え方ができているのかもしれませんので、一つ一つが関連しているかもしれません。予定調和でみんなが同じようなことをしているところに息苦しさや面白みの無さを感じてしまう私にとっては、斬新な意見や、それはなしでしょう!!ということを日常に見聞きできる場はとても刺激的ですし、学びが多いわけです。

障害者は純真か

一方で障害支援の世界で語られることが多いのが、障害のある人は純真で、一緒にいると周囲まで心が洗われるという感想です。おっしゃっている方に他意はないと思いますし、私が発達障害の特性に敬意を払っているから支援をしていて楽しいということと似ていると言えば似ているのですが、あまりにも出来すぎたストーリーというか、汚れなき人々のように奉ることに違和感を覚えてしまいます。言葉を選ばずに書くと、支援することで支援者が自分の毒素を抜いている状態に思えてしまうからでしょうか。あるいは純真であるという包みの中にはどこか障害のある人を単純な人たちに見ているような上下関係を感じてしまうからかもしれません。それこそ私自身が考えすぎて良くないのかもしれませんが、障害のあるなしに限らず聖人化せず、あるがままに敬意を払う姿勢が、支援者には必要ではないかと思っています。(このあたりは心構え編で触れていくと思います。)

次回は広く福祉の支援をする上での心構えをまとめていく予定です。

次回 ”支援者としての心構え” – 二人分泳げること

【リンク】福祉の支援者になりたい方へ シリーズ目次

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年9月)

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福祉の経営者を目指す方へ ”はじめに” 発達障害支援会社の創業・経営を通じて学んだこと 第1章

ちょうど10年前の8月に息子が発達障害の診断を受けました。MBA(経営学修士)のため2年間留学をするために渡米する直前のことでした。なかなか受け止めが出来ず頭も心も大分混乱しました。それから2年後の2009年に帰国とともにKaienを起業しました。自分が経営者になるとは渡米前は思っていなかったですし、働く業界もまさか福祉になろうとは思っていませんでした。(MBAの後に一般的である経営コンサルタントになるのが目標でした。)

マンションの一室で一人始めた会社。まったく知らない業界で、知識も経験も人脈もない状態からのスタートです。特に初めの2・3年は本当に苦しみました。自分への給与も全く出せないほどで、家族や知人に世話をしてもらいながら食いつなぎました。経営が軌道に乗り始めた今でも、経営に失敗して会社のお金が底をつくことへの恐怖心は変わらず続いています。私が修めたMBAは経営学の修士号ですが、MBAを持っているからといって優れた経営者になれるわけではありません。経営の分析は後付けではできますが、未来に起こることを予想しながら社員を活用していく力はMBAで学べるものではありません。実際自分自身も経営については取引先の企業の方々や周囲でサポートしてくれる先輩方から実地で学んだ気がします。

このように相変わらずビクビクとした経営であることは確かなのですが、周りを見渡すと、自分は恵まれた方であることに気付かされます。単純な知識不足で経営がうまく行っていない例や、経営者が孤立無援で心理的に苦しい思いをしている例にたくさん出くわすようになりました。また福祉分野で起業したいという人も多く出会いましたが、思いが形になっている例がなかなか見当たりません。せっかく面白く価値のある福祉業界でありながら、また現場への思いがありながら、それを経営する力が弱いために事業を立ち上げられなかったり、組織が崩れていってしまったり、あるいは思いの外発展させられない例が多いのは残念なことです。

実は福祉のアキレス腱は経営ノウハウ、経営者や管理者の育成ではないかというのはここ数年感じてきたところです。どこの福祉の組織でも現場にいるスタッフはあまり変わらないものです。みんな思いがあるし、一方でみんなスーパーマンでもありませんので限界もあります。その有限の力を上手に使うのが経営ですが、その肝心要な部分が福祉業界はどうやら弱いようなのです。これには経営者は労働者を搾取するものだというような先入観(つまり経営は無ければ無いほうが良いという理想)を持つ人が福祉の世界には多いと思われることや、そもそも福祉を目指そうという人はリーダーシップをとることに不慣れだったり消極的な人が多いこと、また福祉業界が○×がはっきりつくサービスではないため過剰な時間やエネルギーを費やしやすい点もあるように思います。

自分がどこまで有益なものが書けるかまだわかりません。またKaienという発達障害の支援しかしていませんので偏りがあります。しかしある程度、経営のイロハのようなものは分かりますし、8年間で福祉業界の経営が他の業界と違う点、特殊性も色々と感じています。税金をたくさん使っている業界ではありますが、厚労省や文科省が、福祉経営についてレクチャーをしてくれることはありません。非効率で効果の薄いサービスの要因が経営・管理だとしたらやはりそこに資するものは残しておきたいという風に思い始めました。

本シリーズでは下記について触れていきたいと思っています。

  1. はじめに
  2. 福祉事業の特殊性 お金まわり 事業規模 行政・制度との関係 働く人の特徴 イノベーション
  3. 福祉は儲けてよいのか? 福祉事業を経営する際の心構え
  4. 福祉における経営者とは? 戦略/人事教育(ヒト)/サービス(モノ)/財務(カネ)/マーケティング・オペレーション(チエ)/行政対応
  5. 社長の人間性 出来ないことだらけの自分の見つめ方・活かし方
  6. 管理職 組織・インパクトを大きくする方法

なお、同時に福祉の現場スタッフを目指す人向けにも別シリーズでコラムを書いていきます。そちらもぜひ覗いてみて下さい。

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年8月)

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福祉の支援者になりたい方へ ”はじめに” 発達障害支援の現場から 第1章

福祉の支援者になるのは簡単です。利用者からのニーズは日に日に増えているにもかかわらず、人気はあまりない業界だからです。インターネットやハローワークで探せば、明日からでも働いてほしいという求人をいくつも探せるでしょう。

ただ現場はいつも大変です。上司からの指示も曖昧で、マニュアルが有ることは少なく、すべきことは混沌としています。そのうえ支援の仕事ばかりではなく、忙しさの理由が支援の準備や記録といったペーパーワークということは一般的です。給与も他業界に比べると低めなのはすでにご存知かもしれませんし、医療ドラマや警察ドラマなどのようにかっこよく取り上げられる機会もまずありません。つまり目立たないしカッコよくはない仕事です。利用者から嫌われたり疎まれたりすることも珍しくはありません。純粋なタイプの支援者ほど、良いことをしたくて福祉の世界を目指したはずなのにと、涙を流す人もいるでしょう。

更に追い打ちをかけるように一人前になるには5年10年はかかります。資格を取れば良いと思われるかもしれませんが、資格はやる気を示すための証明程度であり、頭の中の知識を現場の動きに活かすには年月がかかります。センスの良い人は初めからある程度価値のある仕事ができる場合もあるのは確かです。それでも納得する支援の割合を高めるには経験が必要です。多くの場合、半年一年は使い物にならないことを覚悟しておいた方が良いでしょう。福祉はいわば職人の世界であり、誰しも悩みながら、自分でも気づかないほどのゆっくりしたペースで成長していきます。この世界のプロになるには近道・抜け道は無いということです。

また勤務する会社・団体がまともな経営をしていないことも多いでしょう。法令違反は論外としても、戦略を持ちながら、中長期を見据えた経営をしている事業体が福祉の世界でどれほどいるでしょうか。福祉の現場で働きたい人が経営・管理をしたくなることは稀ですし、希望があったとしても現場の職人が経営の素質があることは少ないでしょう。(とはいっても経営者向けのコラムで書きますが、福祉の世界で現場はしたくないけれども経営だけをしたいという人にはあまり来てほしくはありませんが・・・) このため人事や経理や総務が機能していなかったり、サービスの一貫性がなかったり、マーケティングが上手でなかったりと、働きづらさがより一層高まることもあるでしょう。

では、福祉の世界で働くメリットはあるのでしょうか?ここまで書いておいてなんですが、上に書いたマイナス点を打ち消すぐらいに沢山あるというのが答えです。まず仕事の目的が善良だということが最大のメリットでしょう。人がより良く生きるためのお手伝いをするというところに後ろめたい気持ちを持つ人はいないでしょうから、正直に自分の時間・エネルギーを費やすことができる仕事です。また教育業界などと重なりますが、人の変化・成長を間近で見られるのは興味深いものです。もちろんそれが自分の支援が一つの力となっていたらこれ以上はない満足感を得られる瞬間でしょう。また福祉というのは社会から阻害されやすい人の支援をしますので難しいケースが多い分、奥が深く、極めようとすればいつまでも興味関心を得られる分野というのもあげられます。5・10年で飽きてしまうような業界ではなく、働けば働くほど自分のためにもなる仕事といえます。変化の激しい他業界に比べると、一度つけた知識や経験が長年使えるという側面もありましょう。

福祉は多くの人を惹き付けることができる業界であることも実は魅力の一つです。つまり対人サービスですので、様々なタイプの人が求められるということです。あるカウンセラーの方の話では、利用者と波長が合う可能性は2・3割。つまり7・8割の人とは支援の波長が合いにくいわけです。多様な利用者に対応するためには支援者の方もきつめの人から優しい人、知識で押すタイプ、経験を持ち出す人、のんびりしている人やテキパキした人など、多くのタイプを集める必要があります。自分は福祉に向かないと思っている人ほどぜひ来てほしい分野でもあります。

このシリーズでは、当社での発達障害の子どもや大人への支援を念頭に置きながら、福祉の支援者になるための心構えや準備についてまとめていきます。予定しているラインナップは以下のとおりです。

  1. はじめに
  2. 発達障害の魅力
  3. 支援者になるための心構え
    第1節「二人分泳ぐ」「小異を捨てて大同につく」
    第2節「共感・傾聴は必要か?」
    第3節「資格を持つ意味」
  4. 知識と技術
    1. 事前に必要な知識
    2. 現場で活かせる技術
  5. バックグラウンド
    1. 業界未経験の方へ/医療福祉で支援経験のある方へ
    2. 40歳以上の方へ/新卒の方へ
    3. 当事者/家族で福祉職を目指す方へ

なお、同時に福祉の経営者・管理者を目指す人向けにも別シリーズでコラムを書いていきます。興味のある方はぜひご一読下さい。

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2017年8月)

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