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発達障害丁々発止8 『発達障害の原因は親の愛情不足、日本伝統の子育てで予防可能という大阪維新の会・大阪市議団の条例案について』

2012年5月3日

いまだにこれが一政党の条例案だとは信じられないのだが、以下コメント。(※条例案と橋下大阪維新の会代表のTweetを末尾に貼り付けてます)

まず僕が「家庭教育支援条例」を今日昼に一読したときに思ったこと。「幼いな」ということ。

  • 冒頭からして「かつて子育ての文化は・・・」という「かつて」っていつ??とか、「温かく、時には厳しい眼差し」とか主観たっぷりの表現だし
  • 唐突に発達障害が出てきたり、虐待の問題になったり、章立てが論理的な並びには思えないし、
  • 「保護者」といったら、「親」といったりで、使っている文言も揺れるし、
  • 市の条例案なのに前文のところで「本の未来を託す」という表現が出てくるし(※大阪市の条例なので「本市の・・・」ではないのか?どこか県用の文章をコピペしてきたのが前文になっているのか? それとも、大阪府でもなく、大阪都でもないので、いつのまに大阪維新の会は大阪構想を大阪構想にしたの?)
  • そもそも文章がなんだか中学生が、難しい言葉をたくさん使って背伸びして書いた文章のようだし・・・

にわかには、大人が書いた文章、とは思えなかった。なので誰かがそれっぽく書いたのかと思ったのだが、橋下さんの反応を見るに本当らしい。。。

これが「わが国の伝統的子育て」によって得られるレベルであったら僕はその子育ては受けたくなかったしわが子にも受けさせたくない。日本語ぐらいしっかり書けるようになって欲しいし、「バカ文春、バカ新潮」と罵った週刊誌でももう少し理路整然とした文章を書ける人が担当している。「維新政治塾」では政策云々を論じるよりも「我が国の美しい」日本語をきちんと扱えるように義務教育レベルの内容を教えたほうが良いのではないかと思う。そもそも新しい人をリクルーティングする前に今の政党員しかも議員である人たちに「伝統的」な教育を受け直させたほうが良いのかもしれないが・・・。(と少し風刺的に反応してみました m(__)m)

とはいえ、人には間違えがあるもの。それと社会をよくしたいという気持ちはわかるが、それがこの条例案の肝であろう「伝統的子育て」では。。。科学的でもないし、まったく論理的でもない。

マイノリティにとって恐ろしいことは、「信頼出来る」と思われている人たちが、本人たちもまったく悪意なく、むしろその状況を懸念するからこそ本気で、まったく反対のことを行なってくれることである。提唱している本人たちも大真面目であるし、それにたいしてマジョリティはあまり反論しないし、一部のマイノリティ(※発達障害に関心がありそうなのは多く見積もっても人口の10%)が騒いでも、怖いのは結局それがスルーされて、世の中ではこの条例案の考え方が「有り」になってしまうことである。

各所ですでにまとめられているであろうが、念の為に、本条例案での事実誤認や誤解をひとつずつあげていくと、以下のようになる。

  • 軽度発達障害 ==> 知的遅れのない発達障害という意味だろうが、これは誤解を招く(知的遅れがなくても問題が深刻な場合も当然あるのだが軽度というとそちらのほうがよりよいような印象がある)として特に行政や学会ではもう使っていない。
  • ひきこもりは70万人、その予備軍は155万人に及び、ひきこもりや不登校、虐待、非行等と発達障害との関係も指摘されている。 ==> 因果関係と相関関係をぐっちゃにした議論。
  • 乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害またはそれに似た症状を誘発する大きな要因であると指摘され、また、それが虐待、非行、不登校、引きこもり等に深く関与していることに鑑み、その予防・防止をはかる ==> 発達障害は先天的・遺伝的であることは科学的にほぼ確か。なので愛着形成云々というのは、言葉を失う感じの誤解。(未だに地動説でなく天動説を信じているのか程度のショック) それに似た症状と発達障害を一緒にするのは、現象は似ているが原因が違うものを十把一からげにして、対応まで一緒といっている暴論にちかい。
  • わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できるものであり、こうした子育ての知恵を学習する機会を親およびこれから親になる人に提供する ==> ひどすぎてコメントをする力を失いそうになるが、なんとかひねり出すと、子育てによって予防や防止ができるわけではなく(※療育やその後の環境調整によって見えにくくなることは当然あるが)、しかもそれが「わが国の伝統的子育て」だとOKというのが発達障害関係の人だけでなく日本以外の諸外国の人たちも馬鹿にするすごい発想だと思う。。。

それにしても、読めば読むほど「伝統的子育て」に新興宗教的に心酔している人がこの条例案を書いていることがわかるし、このマインドセットを解くのは結構時間・工数が掛かりそうだなという気がした。

さて、最後にメディアの役割。実は「自閉症(発達障害の一つ)は親のしつけに関連する」というのは、2008年の共和党の大統領候補、ジョン・マケインも演説で言ったことがある。たしか2008年前半だったと思う。その時メディアは一斉に報道し、翌日マケインが「事実誤認があった」と発言を訂正したことがある。今回は、大阪維新の会という注目すべき、多くの人が期待している政党がつくった条例案でありながら、メディアの反応がいまいちだということ。まじめに「伝統的子育て」を信じている議員たちは「善意」でこの条例案を作っていることを考えると、きちんと声として社会に響かせることは重要である。その役割はマイノリティだといくら今のネットの力を借りてもすぐに風化する可能性があり、だからこそメディアが取り上げて欲しいところなのだが、どうもそうはならない。国会のちょっとした失言を追い回すぐらいなら、こういった10%程度のマイノリティの人が感じている違和感を声として伝えるのがメディアの役割だと思うのだが。。。どうも悲しいことである。

大阪市のこの条例案。まずは完全に無しにしていただき、その気持ちと目標を論理的に科学的に現実のものに出来る案を作っていただければ良いなと思う。

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以下、条例案と橋下さんのやり取りを貼り付けておく。

大阪維新の会  大阪市議会議員団  平成24年5月        
家庭教育支援条例 (案)

第1章 総則
第2章 保護者への支援
第3章 親になるための学びの支援
第4章 発達障害、虐待等の予防・防止
第5章 親の学び・親育ち支援体制の整備

(前文)
かつて子育ての文化は、自然に受け継がれ、父母のみならず、祖父母、兄弟、地域社会などの温かく、時には厳しい眼差しによって支えられてきた。
しかし、戦後の高度成長に伴う核家族化の進展や地域社会の弱体化などによって、子育ての環境は大きく変化し、これまで保持してきた子育ての知恵や知識が伝承されず、親になる心の準備のないまま、いざ子供に接して途方に暮れる父母が増えている。
近年急増している児童虐待の背景にはさまざまな要因があるが、テレビや携帯電話を見ながら授乳している「ながら授乳」が8割を占めるなど、親心の喪失と親の保護能力の衰退という根本的問題があると思われる。
さらに、近年、軽度発達障害と似た症状の「気になる子」が増加し、「新型学級崩壊」が全国に広がっている。ひきこもりは70万人、その予備軍は155万人に及び、ひきこもりや不登校、虐待、非行等と発達障害との関係も指摘されている。
このような中で、平成18年に教育基本法が改正され、家庭教育の独立規定(第10条)が盛り込まれ、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」と親の自覚を促すとともに、「国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない」と明記した。
これまでの保護者支援策は、ともすれば親の利便性に偏るきらいがあったが、子供の「育ち」が著しく損なわれている今日、子供の健全な成長と発達を保障するという観点に立脚した、親の学び・親育ちを支援する施策が必要とされている。それは、経済の物差しから幸福の物差しへの転換でもある。
このような時代背景にあって、本県の未来を託す子供たちの健やかな成長のために、私たち親自身の成長を期して、本条例を定めるものである。

第1章 (総則)

(目的)
第1条
1項 親およびこれから親になる人への「学習の機会及び情報の提供等」の必要な施策を定めること
2項 保育、家庭教育の観点から、発達障害、虐待等の予防・防止に向けた施策を定めること
3項 前2項の目的を達成するため、家庭教育支援推進計画を定めること

(基本理念)
第2条
家庭教育の支援は、次に掲げる条項を基本理念として、推進されなければならない。
(1) 親は子の教育について第一義的責任を有すること
(2) 親と子がともに育つこと
(3) 発達段階に応じたかかわり方についての科学的知見を共有し、子供の発達を保障すること

(社会総がかりの取組)
第3条
前2条の目的および基本理念にもとづき、家庭教育の支援は、官民の区別なく、家庭、保育所、学校、企業、地域社会、行政が連携して、社会総がかりで取り組まれなければならない

第2章 (保護者への支援)

(保護者への支援の緊急性)
第4条
現に子育て中であるか、またはまもなく親になる人への支援は、緊急を要するため、以下に掲げる施策が、遅滞なく開始されなくてはならない

(母子手帳)
第5条
母子手帳交付時からの親の学びの手引き書の配付など啓発活動の実施、ならびに継続的学習機会の提供および学習記録の母子手帳への記載措置の実施 

(乳幼児検診時)
第6条
3ヶ月、6ヶ月、1歳半、3歳児検診時等での講習の実施ならびに母子手帳への学習記録の記載措置の実施

(保育園、幼稚園等での学習の場の提供)
第7条
すべての保育園、幼稚園等で、年間に1度以上、保護者会等での「親の学び」カリキュラムの導入

(一日保育士、幼稚園教諭体験)
第8条
すべての保育園、幼稚園で、保護者を対象とした一日保育士体験、一日幼稚園教諭体験の実施の義務化

(学習の場への支援)
第9条
保育園、幼稚園、児童館、民間事業所等での「親の学び」等の開催支援

第3章 (親になるための学びの支援)

(親になるための学びの支援の基本)
第10条
これまで「親になるための学び」はほとんど顧みられることがなく、親になる自覚のないまま親になる場合も多く、様々な問題を惹起していることに鑑み、これから親になる人に対して次に掲げる事項を基本として、学びの機会を提供しなければならない。
(1) いのちのつながり
(2) 親になることの喜びと責任
(3) 子供の発達過程における家族と家庭の重要性

(学校等での学習機会の導入)
第11条
小学校から大学まで、発達段階に応じた学習機会を導入する

(学校用家庭科副読本および道徳副読本への導入)
第12条
小学校から高等学校まで、発達段階に応じて、次に掲げる事項を基本とした家庭科副読本および道徳副読本を作成し活用する
(1) 家族、家庭、愛着形成の重要性
(2) 父性的関わり、母性的関わりの重要性
(3) 結婚、子育ての意義

(家庭用道徳副読本の導入)
第13条
前12条の内容に準じて、保護者対象の家庭用道徳副読本を作成し、高校生以下の子供のいる全ての家庭に配付する

(乳幼児との触れ合い体験学習の推進)
第14条
中学生から大学生までに対して、保育園、幼稚園で乳幼児の生活に触れる体験学習を義務化する

第4章 (発達障害、虐待等の予防・防止)

(発達障害、虐待等の予防・防止の基本)
第15条
乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害またはそれに似た症状を誘発する大きな要因であると指摘され、また、それが虐待、非行、不登校、引きこもり等に深く関与していることに鑑み、その予防・防止をはかる

(保護者、保育関係者等への情報提供、啓発)
第16条
予防、早期発見、早期支援の重要性について、保護者、保育関係者およびこれから親になる人にあらゆる機会を通じて情報提供し、啓発する

(発達障害課の創設)
第17条
1項 発達障害の予防、改善のための施策は、保育・教育・福祉・医療等の部局間の垣根を廃して推進されなければならない
2項 前1項の目的達成のために、「発達障害課」を創設し、各部局が連携した「発達支援プロジェクト」を立ち上げる

(伝統的子育ての推進)
第18条
わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できるものであり、こうした子育ての知恵を学習する機会を親およびこれから親になる人に提供する

(学際的プロジェクトの推進)
第19条
保育・教育・福祉・医療等にわたる、発達障害を予防、防止する学際的研究を支援するとともに、各現場での実践的な取り組みを支援し、また、その結果を公表することによって、いっそう有効な予防、防止策の確立を期す

第5章 (親の学び・親育ち支援体制の整備)

(民間の、親の学び・親育ち支援ネットワークの構築推進)
第20条
親としての学び、親になるための学びの推進には社会総がかりの取り組みが必要なため、民間の、親の学び・親育ち支援ネットワークの構築を支援し、推進する

(民間有資格者の育成に対する支援)
第21条
親としての学び、親になるための学びを支援、指導する「親学アドバイザー」など、民間有資格者等の育成を支援する

(「親守詩」実行委員会の設立による意識啓発)
第22条
親と子がともに育つ実践の場として、また、家族の絆を深める場として、親守詩実行委員会を設立して発表会等の催しの開催を支援し、意識啓発をおこなう

(家庭教育推進本部の設置と推進計画等の策定)
第23条
1項 首長直轄の部局として「家庭教育推進本部」を設置し、親としての学び、親になるための学び、発達障害の予防、防止に関する「家庭教育推進計画」を策定する
2項 「家庭教育推進計画」の実施、進捗状況については検証と公表をおこなう

橋下徹 ‏ @t_ishin
発達障がいの主因を親の愛情欠如と位置付け愛情さえ注げば発達障がいを防ぐことができるというのは科学的ではないと思うという僕の考えを市議団長に伝えました。これからこの条例案について市議団内での議論が始まります。是非大阪維新の会市議団に様々なご意見をお寄せ下さい。

維新の会市議団長に確認をしました。家庭教育支援条例は議員提案の条例案であり発案議員グループが作成し、これから市議団政調会にかけるという段階です。この段階で報道されたようです。これから政調会で議論が始まり様々な方の意見を聴取するようです。

ただこれは必要十分条件の話ですが、愛情欠如になれば、子どもに多くの悪影響があるのは確かでしょう。しかしだからと言って、子どもに何か問題があるからと言ってその原因は親の愛情欠如だと言い切ることにはならない。ゆえに発達障がいの主因を親の愛情欠如と据えるのは科学的ではないでしょう。

市議会での議論後市長として最後は政治決着を図りますが、議論前に僕が市議団の決定をすることは首長と議会の関係上やってはならないことです。そして議員提案条例は議会内議論で決まってしまいます。ただ親の愛情欠如と発達障がいとをイコールにしてしまう考えには賛同できませんので議会に伝えます

市政における市議団維新の会の方針について僕には決定権はありません。ここまで僕が決定権を持つとそれこそ完全な独裁になってしまいます。僕は府議・大阪市議・堺市議をまとめた全体の方針決定をします。

ですから僕が知事時代も大阪維新の会府議団にノーを食らったことはいくつもありますし、市長になっても維新の会市議団にノーを食らっていることはたくさんあります。ここは議会と市長できちんとチェックアンドバランスを働かせようと注意しています。

そこで大阪維新の会の運営方針として、大阪府議会・大阪市議会・堺市議会をまとめた大阪全体の方針については僕が代表を務める大阪維新の会の執行部で方針を固めます。しかし各府政、市政においては、知事・府議団・市長・市議団が独立してやっていく集団にしています。

議員提案の条例となると、これは日本の地方自治制度の仕組みなのですが、議員間討論で決めて行くことになります。市長が間に入ることはありません。大阪維新の会は日本初の試みの政治団体です。首長が議員集団のリーダーになる。当初首長の独裁になる、議会のチェックが働かなくなると批判を受けました

客観的な子育て支援は必要です。特に児童虐待の多い大阪においては。ネグレクト一歩手前で子どもが悲惨な状況になっている事案が多いのも事実です。愛情を持って子育てしましょうという呼びかけとしては問題ないのでしょうが、発達障がいの原因とすることには大きな問題があるでしょう。

このご意見は理ありです。僕は市民に義務を課すことは基本的に好きじゃありません。今回の条例は市議団提案です。市政になると同じ維新の会でも市議団と市長という立場になります。市議団に伝えます。 RT @hirokook: 軽度発達障害(etc)が親の愛情不足とか太古の理論出してんじゃね

@hirokook このご意見は理ありです。僕は市民に義務を課すことは基本的に好きじゃありません。今回の条例は市議団提案です。市政になると同じ維新の会でも市議団と市長という立場になります。市議団に伝えます。

以前のブログから
大阪維新の会 発達障害関連の条例案(!?)のご紹介 (12/05/03)

発達障害丁々発止5 『新大阪市長・橋下さんの障害者雇用施策について』(11/11/28)

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