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福祉の支援者になりたい方へ ”知識と技術” – 事前に必要な知識発達障害支援の現場から 第4章

2020年10月14日

前回までは”支援者としての心構え”としての精神論的な部分をまとめました。第4章は知識や技術についてです。

フロイトが活躍する前、つまり100年ほど前。ヨーロッパの知識では「人の心は体のように傷つく」ということは常識ではなかったと聞いたことがあります。それまでは悪魔とか呪いとかそういう知識だったのでしょう。身体の治療は長い年月をかけて医学として知識化・体系化されていたわけですが、精神や認知への治療法は「心も傷つく」という概念がなかったためにそれほど進まなかったのではないでしょうか。精神医学がここ1世紀急速に発達したのは心を傷つくものとして知識化した結果と考えることもできます。知識は重要ということですね。

発達障害の支援に使える知識というのはどういうものか?今回は特に初心者が何を知っていたほうが良い知識群をまとめます。

発達と障害 一丁目一番地は大事だけど…

発達障害の人の支援をするときに当然、「障害」や「発達障害」についての知識も必要となるでしょう。とはいっても、ここは支援をする上で一番気になる部分ではないでしょうか。診断名、その特徴、特性への対応、周囲の接し方。書店に行くと今や発達障害関連本は1コーナーになるほど多いですし、ネットでも競うように発達障害とは?発達障害の人の対策という記事を見かけます。

支援者を目指す方ならばここの部分は流し読みしていたとしてもそれなりに事前知識がある。あまり発達障害の一丁目一番地はこだわらず、次に進みましょう。

資源や制度 現場で出会う前に名前だけは覚えておきたい

医療や福祉の社会資源を知っておく必要もあります。このあたりはネットで情報が集めやすいところですが、社会福祉士でも取得しない限り制度全体を理解するのは難しいほど日本の医療福祉は複雑で大きなものですので、知らないといけない最低限を知るのがポイントです。

  • 医療系(精神科・心療内科の相違点、(児童)精神科医のタイプ、産業医、薬の種類と効用・副作用、デイケア、リワーク など)
  • 福祉系(保健所、児童相談所、障害福祉課、児童発達支援(療育、放デイ)、就労系サービス(自立訓練・移行・定着・A型・B型)、移動支援、生活支援、あわせて障害者手帳や障害年金、健康保険、雇用保険、傷病手当金 など)
  • 就労系(ハローワーク、地域若者サポートステーション、民間エージェント、障害者雇用制度 など)
  • 教育系(公立と私立の相違点、通級・支援級、特別支援学校、通信・サポート校、奨学金、ポスドク制度 など)

かいつまんでとリストアップしたところ、だいぶ長いものになってしまいましたが、上記のような理解は最低限必要になると思います。

一方で実際に対人支援をしないとどのタイミングでどのような知識が必要になるかはわかりづらいでしょう。知識を事前に蓄積するのは、本を読む前に辞典を読むようなもの。やはり現場で会いながら(本を読みながら)、先輩スタッフや本・ネットを確認する(確か辞書でこういうのを見たなと思って再度知識を確認する)ぐらいのペースが良いと思います。

社会の知識 自分が異質と気づけるか?

発達障害の方は自分だけで苦しむことは(感覚過敏など自然に影響を受けるところ以外は)ほとんどなく、他者や周辺との関係性、つまり社会性の中で困っています。このため社会に対する知識が最も重要だと私は考えています。具体的には当社の新入社員の研修動画だと下記がキーワードになっています。

  • 若者社会(最近の流行、デジタルネイティブ、SNS/ゲーム依存、通信サポート校など)
  • 働き方のトレンド(就職氷河期、業種・職種の盛衰、アルバイトの職種など)
  • 親子関係(虐待・ネグレクト、反抗期、ひとり親、貧困の連鎖 など)

社会の理解は自分の常識を疑うためにも必要です。

私がそれを強く感じたのはアメリカへの留学時代です。マーケティングの授業で印象的な考えに出会いました。その授業では60人ぐらいが参加していたのですが、教授から「この中で家に銃がある人はいますか?」という問いがありました。手を挙げた学生は3人。銃保有の権利主張が強いアメリカ人の他の学生からも驚きの声が上がったのですが、教授は「しかし実はあなた方のほうが普通じゃないです。全米では三分の2が保有している」という話をつづけました。つまり都会の大学院に来るような家庭は、多くの米国民と違う環境で育って、違う価値観を持っているということです。

マーケティングで当てはまることが支援でも丸々当てはまるはずです。

ついつい支援者は自分の人生を当たり前と思いがちです。どのような家庭に生まれ、どのように教育・しつけを受け、どのように働き、どのような周囲の人に囲まれながら、何を目標として過ごし、どのような制約を受けながら、老後を迎え、そして死んでいくのか。世代が違うと、人生に対する捉え方も違いますし、地域や家族によっても影響を受けます。

社会の流れを理解して、何が目の前にいる支援対象の人にとっての常識なのか。それを理解するうえでは自分の常識の羅針盤を整理し続け、生き物ともいえる”社会”の把握することがとても大事なのです。

 

【リンク】福祉の支援者になりたい方へ シリーズ目次

(文:Kaien代表取締役 鈴木慶太 2020年10月)

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