年末のKaien通信簿 今年は赤点すれすれですKaienの社会的価値 ~2016年を振り返る 前編~
毎年恒例の社会的価値の計算です。年末の12月の最後の営業日やその次の日ぐらいに行っています。いつもは結構楽しい作業です。自分の会社の価値がある程度納得感のある指標で出ますので。ただし今年は良い面も引き続きしっかりあるのですが、一方で厳しさも見える結果が出ました。計算していて年末気分が(もともと無いものの)一層冷めましたし、新たな気づきもあって身の引き締まる思いです。
改めて去年の記事を読み直すと、能天気というか、カイゼンの意欲が低かったなぁと反省しています。次回のために下に貼り付けておきます。
福祉に税金を使うと経済的に無駄になるどころか得をする (2015年 今年のKaienの就職支援実績・社会的価値など計算しました)
去年と同じ方式で今年を振り返りましょう。
① 当社修了生の就職者数 161人→172人/年 にアップ
拠点数が増えたこともあり、就職者数はアップしています。これは最低限必要なところをクリアしたというような印象です。就労移行支援事業所は当社は今6か所ありますので、1か所あたり20数人の計算です。(ただし大学生向けのガクプロや、高校生も通うTEENSといったサービスも含みますので、単純に割り算はできませんが、それでも多くは就労移行支援から就職していきます。)
【参考】発達障害者向けの独自求人あり適職に就ける 対人力がつく 職業訓練プログラム
【参考】ガクプロ 発達障害(含・疑い)のある大学生向け 就活と仲間づくりのコミュニティ
【参考】TEENS 発達障害児のための放課後等デイサービス首都圏で展開中
一拠点当たり20数名の就職者数は多いか少ないかというと、めちゃくちゃ多いです。(全国平均に比べると10倍近いとは思います。)これだけの規模で、この質を保っているのは当社だけかもしれません。後述しますが定着率は鬼の高さが続いていますので、純粋に胸を張れる数字だと思っています。就労移行支援としての矜持は保てています。
② 当社修了生の定着率 90%超(1年)を維持
定着率は就職した後、その職場にどの程度の人が残っているか、働き続けているかという数字です。定着率の反対が離職率ですね。
去年は95%だった(半年後ではなく)1年後の定着率。今年も90%を優にクリアして、95%に迫る勢いでした。前回もお伝えしましたが、この業界では半年後の定着率を発表するところが多く、その数字はおおむね8割前後。つまり1年後は単純計算で8割の8割は0.8×0.8=7割弱と推測されます。それに比べると20%~30%も高い定着率で、ここは本当に当社の定着支援の強さですし、定着支援が上手というよりもしっかり育てて、企業に上手に理解して人材活用をしてもらっているということなのだと思います。まとめますと定着率は花丸といえましょう。
定着率は100%が良いわけではないです。新しい挑戦をするために転職をするなどで離職する人もいますから90%ぐらいが一般枠では普通なのだと思いますが、障害者枠ではやはり転職がそれほど簡単ではないですからやはり定着率は高いほうが良いでしょう。ちなみに冗談でよくいうのですが、うちの修了生の定着率は、スタッフの定着率よりも高いです…。というか95%に勝つのはなかなか難しいです。でもスタッフの定着率も来年こそは、当社修了生の定着率を上回るようにしたいと思います。
③ 当社修了生の平均月給 17.5万円→17万円へ微減
この辺りからです……やや雲行きが怪しくなるのは(泣)。給与の水準が少し落ちています。ここについてはグラフを作成していませんが、元のデータを見ると高い人は順調に障害者枠であっても月給20万円を超える給与のところに就職できている傾向は続いています。
何が変わっているのかというと、当社を利用する人で若い人が増えてきたということ、軽作業など(通常給与が低い業務)を希望したりフィットしたりする人が増えてきたということ、そしてフルタイム(つまり7.5時間/日とか8時間/日勤務)ではなく、1日6時間程度の勤務でないと体調が維持できない人が増えてきたこと、などがあり、どうしても給与が下がっていっているのがわかります。
当社も就労移行支援を始めた4年前は、すでに一般枠での就業経験があったり、学歴が高かったり、と給与が高くなりやすい人たちの受け入れが多かったのですが、本当に利用者が多様化してきていることの表れかなと思っています。
とはいえ、言い訳は許されません。少しでもフィット感のある職場でありながら、給与も妥協してはいけないと思っています。最低賃金もここ数年うなぎ上りですし、当社としてもしっかりボトムアップをしていきたいと思いをあらたにしました。
④ 当社修了生の就活期間 6~7か月→9~10か月と伸びる
ここから3つ厳しいニュースが続きます。あまりこういうのを公表する会社は少ないと思うのですが、しっかりと自分たちをさらけ出していきたいと思います。
残念ながら就活期間が延びてしまいました。平均を見ると9か月をやや上回る数字です。③でも書いた通り、これまでよりも多様な人たちが当社を利用してくれるようになっているので、かつ通常2年かかるといわれる就労移行支援業界を考えると、9か月という数字をどう読むかは、解釈が分かれるところかもしれません。でも伸びているんだよね…というのが僕の感想です。
⑤にも関わりますが、困難ケースといわれる二次障害があるケースや、就業意欲が低い準備性がまだまだな人が入ってきている、というスタッフの訴えは概ね正しいのだなぁというのが数字を見て思うところです。
ADHD的な”就活先延ばし癖”にどう対応するか?
一つだけチャートで解説します。ほぼ内部資料に近いものですが、業界全体として参考になればと思い、公開してしまいます。
まず青い棒を見てください。就職したKaienの就労移行支援修了生が、どの程度当社を活用したかというものです。前述の通り平均の利用期間は9~10か月ですが、実は最頻値は7か月にあります。また2番目も8・9か月にあり、5・6か月という数字も高めです。これを見る限り実はある程度の人は半年少しぐらいで内定を勝ち得て就職していることがわかります。
オレンジの折れ線に解説を移します。こちらは何パーセントの人が就職していっているかという累計です。50%を超すのが8・9か月。ただそのあともじりじりと就職が出て、オレンジの線がクイッと最後に上昇するのが1年6か月以降というのがわかります。就労移行支援の利用は最大2年間が原則です。このため、最後に尻に火がついて就活をして滑り込みセーフというようなケースが多いというわけです。
当社の支援スタッフがギリギリまで支援をすることをさぼっているのか?それはないと思います。①~③で見る通り、利用者が多様化する中でも、就職者数・定着率そして給与面と全国トップレベルの働きをしているのは明らかです。それと、現在フルタイムの採用率は2%と驚くべき水準です。100人当社で働きたいと言ってくれて実際に働いているのは2人のみという精鋭です。いい気になってはいけませんが、そのぐらい当社で働きたいという人が多くいてくれてありがたいですし、気持ちと能力がある人が現場で力を発揮してくれていることはお伝えしたいと思います。
ただし改善の余地があるのも明らかだといえましょう。特に3か月前後の超スピード就活を手助けする仕組みがまだ当社に弱いのではないか、7・8・9か月かかっている人たちを5・6・7か月など意識改革が必要でしょう。そのためには、早めに職業適性をアセスメントしてご本人に納得して就活モードに突入させる必要があるのだと思います。(もちろんゆっくり就活をしたほうが良い人もいます。昨日インテークをした人にも初めの6か月はとにかく就活を考えずに行きましょうとアドバイスしたばかりで、本当に人それぞれではあります。)
改善の余地の最も大きいのは1年以上かかっている層、特に1年半以上かかっている層についてです。議論の簡略のために当社の力不足を棚に上げ、発達障害の特性的に説明すると、ADHDの先送り癖、やる気スイッチが入らない特性が出ていると考えられます。ここは発達障害の支援でも難関中の難関ではあります。が、課題が難しいからこそ当社の出番と思いたいです。簡単にはいかず、来年のこの場の報告でも苦戦を強いられていることをお伝えすることになってしまうかもしれません。それでも、支援者の個の力を上げて、就活意欲を高められる就労移行支援事業所を作っていきたいと思います。
来年は7か月ぐらいに利用月数を下げることが目標です。
⑤ 中退率が20%を超えるという事態
今回集計していて最も悲しかったのがこの中退率です。昨年までは計算していませんでした。(社会的な価値の指標ではこの数字は直接は用いないためです。)ただし元データをいじっていると「自主退所」の文字が目立つなと思い、調べ始めました。そしてため息を何度もしてしまう状態に気づきました。
中退率の定義は、就労移行支援に入ったものの、就職に至らず、途中で当社の訓練をやめていく人の割合です。この”中退”の中には、就労継続A型・B型に移る人が含まれています。ですがそれはごくごくわずか(5人程度)で、中退率を数パーセント変える要因にすぎません。中退のほとんどの場合は、体調不良、精神的な不調、つまり二次障害やご家庭のトラブルによって、就労移行支援に来られなくなってしまう人です。
就労移行支援事業の”中退率”は、当社以外ではまず見たことがなく、業界の人が語っていることも聞いたことがありません。経営上、公開するのはリスクがあるので(※この支援事業所は扱いがうまくないというメッセージを与えかねないので)ある意味タブーなのかもしれません。あるいは「障害者だから、それは難しい人もいるでしょう」ということで、一定程度の人はドロップアウトするのは常識だからあまり注目されていない数字なのかもしれません。
でも、うちの場合は、今最低でも4か月、長いと半年以上待機して、ようやく就労移行支援に入ってきてもらっています。今後事業所は引き続き増やす計画をしています。ですので、待期の期間は縮まる予定ですし、それでも短期的には、かなりお待ちいただいた後、ようやく待ちかねて利用を始めていただく状態に大きく変わりはないでしょう。
それが途中で辞めざるを得ないのはやはり忍びない、もう少し何かできないのかと思ってしまいます。以前はこの数字は15%を少し超えるぐらいでした。今年は25%です。4人に一人です。多いですよね。本当に申し訳ありません。個人的にとても残念で、悔しいです。
言い訳をさせていただくと、中退率が0%というのもややおかしいと思うのです。挑戦させていないということですから。実際、発達障害の人の中には、「本当にこの人就職できるかなぁ」という人が少なくないのは事実です。また繰り返しになりますが、当社を頼ってくれる人が本当に多様化していて、以前よりも難しい応対が増えているのは確かです。
なので確実に就職につなげられる人だけを支援していけばもちろん数字は改善するでしょう。でもそれでは福祉の意味がない。やはりしっかりと下支えをするという理念は保っていたいものです。ですので、厳しい戦いになることを理解したうえで就労移行支援で頑張っていこう、という姿勢は堅持していきたいと思います。
二次障害への対応力を高める Kaienとしてのコミットメント
じゃあ、どうすんのよ、ということですが、まだわかりません。少し考えたいですし、当社内でほかのスタッフにも知恵を絞って、行動につなげてもらおうと思います。
困難ケースへの対応は、この業界で5年・10年と重ねないと対応力がつかないという現実もあります。当社の現在の最大の経営テーマは現場の支援力の向上です。図らずも経営方針は正しいのが今回の中退率の上昇で浮き彫りになりました。5・10年を2・3年で学べないか、スタッフの成長速度と成長の深さを手助けする経営をしないといけません。
当社は相談支援事業も持っています。事前にあるいは利用開始後に困難性が予想される利用者については、通常の体制だけではなく、経験豊富なスタッフがつく体制を整えているのですが、それもまだ不十分なのだと思います。一人一人が支援の力をつけていく必要が本当にあるなと思いますし、早めに本人の異変に気付き、介入の手段を当社のシステムにいくつか用意しておく必要があるのだと思います。
この中退率は業界はどのぐらいなのでしょうか?そういえば某企業が一人就職すると2人利用者の呼びかけをすると聞いたことがあります。普通に考えるとその会社は50%の中退率を予想しているということになります。そのぐらいなのでしょうか?25%という今年の当社の数字はかなりまともと言えるのでしょうか?来年またご報告させてください。
⑥ 当社の今年の社会的価値 2.7億円/年→1,700万円/年
さて、そもそもこのブログは当社の社会的価値がどのぐらいあったのかをお伝えするために書き始めたものでした。この社会的価値は当社オリジナルの計算方法です。当社や修了生、スタッフが税金などで収めたり、修了生が生活保護を脱して国庫の負担が減ったりして社会に貢献した額から、当社が税金を使わせてもらった部分(当社の主力は障害福祉事業でそれらの売り上げは自治体に請求している)を差し引いた額です。当社のウェブサイトにも掲載しています。
計算方法:会社納税額+社員納税額+Kaien経由就職者納税額(未来分も含む現在価値)+生活保護減少額(未来分も含む現在価値)ー当社に投下された税金=社会的価値
それがなんと10分の一以下になったのが今年です。理由は、①では就職者数が増えているとお伝えしましたが1拠点当たりの就職者数はわずかに落ちています。つまり効率が下がってしまったわけです。また、就職した人の給与が下がったのもわずかですが影響しています。こちらも彼らが払う税金の見込みが下がるからです。
ただ何よりも大きなインパクトがあったのが、今年から子ども向けサービスの税金投下分も計算に入れたことがあります。自分で計算式を変えたというのが理由です。
発達障害のある子どもへの支援である放課後等デイサービスは明確な成果をとらえづらいんです。具体的に言うと当社には400人余りの小中高生が通っていますが、そのうちこの1年で就職したのは10人ぐらいです。就職だけを成果とみる(今の当社の)社会的価値の算出方法だと、圧倒的に税金を食いつぶすサービスとなってしまっています。
念のため付け加えると当社の創業以来の社会的価値の累計額6.1億円から5.6億円に下がりました。なんだかおかしく感じられるかもしれませんが、割引という将来にわたって就職した人が払うであろう税金などを割引率で現在価値で戻しているので過去の分も影響を受けてしまいます。非常にアカデミックというか数学的というかで申し訳ないですが、式に入れるとこのような結果となったわけです。
ブログを書き始めてからおそらく2時間か3時間がたちました。この後は、2段落上に書いた子どものサービスの価値をどう捉えればよいかを書こうと思うのですが(放課後等デイサービスにこの勢いで税金を投入してよいのか、よいならばどういうことを放デイは目指すべきかのか、やはり税金の投入が過度ならばどのような政策をとってほしいかなど)、さすがにこの記事が重くなってきたので、いったん前編として切り、~2016年を振り返る 後編~として(元気があったら)明日続きとして書きたいと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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