シリーズ「合理的配慮」 Part 3 諸外国の合理的配慮
【はじめに】 国連の「障害者の権利条約」に署名した日本。しかし批准のためには、これまでの現行法令では対応できない概念「合理的配慮」に対応する法令を整えないといけない。このため今国内的な議論が行われている。このブログでは5回シリーズで現状分析や僕の考えを書いていく。 過去のエントリはこちらから==> Part 0, Part 1, Part 2
デンマークのSpecialisterne社には オフィスにレゴもあればテレビゲームもある |
【本文】 僕が見た例というと米国とデンマークが主になる。
米国ではシカゴ中心部にあるIT企業。同じビルにいくつかの子会社が入っていたが、そのうちの一つが主に身体障害者のエンジニアを雇っている会社。そのオフィスを見学させてもらった。親会社はIT技術者の人材派遣を主な事業にしているが、その子会社は主に開発をやっていた。(なお、一時は世界一高いビルとして有名なシアーズタワーのすぐ近くにそのオフィスはある。シアーズタワーは名前が変わってしまっているが、新しいタワーの名前をいつまで経っても覚えられない。。。)
そのオフィスを見た感想と言ったら、まあ普通だなぁという感じであった。日本でリクルートオフィスサポートさんを見学させてもらったときは、その細かな配慮に「へぇー」が連発したが、このシカゴのオフィスはごくごく一般的なアメリカのオフィスであった。アメリカはそもそもオフィスが広い。エレベーターもドデカイ。(まあ人もドデカイのだけど。。。)確かに働いている人は車椅子の人が多かったけど、「合理的配慮」をしているという頑張り感はほぼゼロ。もちろんみんな車通勤であるし、楽しそうだなぁという印象であった。
デンマークはSpecialisterne社。ほとんどの人は週20時間勤務。フルタイムじゃないとお給料がという心配はなく、フルタイムに足りない分は国が補填してくれる。なので短時間労働でも問題なし。オフィスは遊びの道具がある以外は殺風景。働いている人が自閉症スペクトラムの人が多いからか、びっくりするほど静かであった。作業スペースはとにかく広い。多くの場合、ひとつの小部屋に一人か二人しか入っていない。
驚いたのが、生活の事で困っても、オフィスでサポートしてくれること。具体的に言うと、例えば公共料金の手続きの仕方が判らなかったら、心理士の先生が一緒にやってくれる。旅行に行きたいけれども、、、となったら一緒になって手続きを考えてくれる、そんなコンシェルジュ的なことまでやっているそうだった。もっとも自閉症スペクトラム以外の人の離職率は高いとかで「自閉症の人に働きやすいんだけど、そうでないスタッフにも居心地の良い職場にするのが課題なの」とのことだった。
で、なにを言いたいのか、感じたのかというと、合理的配慮というのは本当にそれぞれだなぁということである。つまり合理的か非合理的かを判断するのはいろいろな基準の総和だという感じ。数学で言う変数が多いということになる。
合理的か非合理的か = a×対象者の制約(いわゆる障害特性) + b×対象者が行う作業の難しさ + c×周囲の人の管理レベル + d×文化(国や都市、社風、職場) + e×物理的環境
ここでいうとaやbはプラスの値、つまり障害特性が高ければ高いほど、あるいは作業内容が難しければ難しいほど、合理的な配慮は難しくなるし、cはマイナスの値、つまり管理者の能力が高ければ高いほど合理的な配慮のケースが多くなると思う。一方、文化面はある意味、所与(変えられないもの、変え難いのもの)である気がしている。つまりdはプラスでもあるしマイナスでもあるが、それは短期的には受け入れるべきものな気がしている。eもプラスでもありマイナスでもあると思うが、車椅子でも働きやすいとか聴覚過敏の人に対してイヤホンを許容するなどの物理面での配慮と言えると思う。
では何を変えられるのかというと、eはもちろんとして、一番影響があるのはb か cの部分であろう。つまりジョブマッチングをしっかりやること。そして、周囲の人の管理レベルをあげるということである。特に周囲の人の管理レベルを上げる方法がもっとも社会的な幸福度を上げる気がしている。つまり障害のある人の管理がうまい人は往々にしてそうでない人の管理もうまいと思う。
合理的配慮がなんなのかを空中で議論するよりも、合理的配慮を事も無げにできるような出来る管理職を増やすことをどう考えるかの方が遥かに重要ということである。一筋縄ではいかないんだろうけど。
と、だいぶ予定よりも文字量がオーバーしたところで、次回。次は自閉症スペクトラムと合理的配慮について触れたいと思う。
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