世界と逆行する日本の障害者事情 行き来が出来る社会へ 「分離教育」と「隔離生活」を考える障害者権利条約批准後の初審査・初勧告を受けて考察します
国連からの通信簿
先月ジュネーブで開かれた障害者権利条約批准後の初審査。本ブログでもお伝えした通り、早速国連から「勧告」が通知されました。
【前回のブログ】そもそも「障害者権利条約って?」「国連が日本を審査?」「勧告とは?」という方は下記リンクをまずお読みください。
勉強になります…障害者権利条約後の初審査を視聴 – コーポレートサイト : 株式会社Kaien (kaien-lab.com)
原文を確認しよう!
勧告の概要や全文は国連のウェブサイトで誰でも確認できます。
↓↓↓↓通知概要↓↓↓↓
UN disability rights committee publishes findings on Bangladesh, China, Indonesia, Japan, Korea, Lao, New Zealand, Singapore and Ukraine
09 September 2022
↓↓↓↓通知文章↓↓↓↓
Word資料(日本への勧告全文)
主要なところを訳すと下記のようになります。(www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。)
The Committee noted with concern that people with disabilities, especially people with intellectual and/or psychosocial disabilities, older people and children who require more intensive support, have been placed in institutions for long periods, thus being deprived of family and community life. It asked Japan to take expedited measures to end institutionalisation by reallocating its budgets from residential institutions to arrangements to support people with disabilities to live independently in the community.
The Committee also expressed concerns about children with intellectual and/or psychosocial disabilities, and those who require more intensive support are segregated from regular schools. It recommended that Japan cease segregated special education, and adopt a national action plan on quality inclusive education, with specific targets, time frames and sufficient budget to ensure that all students with disabilities are provided with individualised support at all levels of education.
委員会は、障害者、特に知的及び/又は心理社会的障害者、高齢者、より集中的な支援を必要とする児童が、長期間にわたって施設に収容され、家族や地域社会の生活を奪われていることに懸念を表明し、日本に対し、入所施設からの予算を再配分することにより、施設収容を廃止する措置を早急にとるよう要請した。委員会は、日本に対し、障害者が地域社会で自立して生活することを支援するための手配に、入所施設から予算を再配分することにより、施設収容を終わらせるための迅速な措置をとるよう要請した。
また、委員会は、知的障害や心理社会的障害を持つ子どもたちや、より集中的な支援を必要とする子どもたちが、通常の学校から隔離されていることに懸念を表明した。委員会は、日本が分離された特殊教育を中止し、すべての障害のある生徒が教育のあらゆる段階で個別の支援を受けられるようにするため、具体的な目標、時間枠、十分な予算を備えた質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択するよう勧告した。
日本の英字新聞のサイトは記者会見の様子も踏まえて報じていて、雰囲気がわかりやすいです。
U.N. panel urges Japan to end segregated education of children with disabilities (The Japan Times)
Jonas Ruskus, vice-chair of the committee and co-rapporteur for the country, said at a press briefing that Japan must reverse its “negative trend of (segregated) special education.”
同委員会の副委員長で同国の共同報告者であるジョナス・ラスクス氏は、記者会見で、日本は”(分離)特殊教育の負の流れを逆転させなければならない “と述べた。
日本は“そこそこ”褒められている
今回は日本だけではなく、韓国やニュージーランドも審査対象でした。上のリンクでそれらの国への勧告も読めますが、日本だけが是正を求められたわけではありません。
外交儀礼かもしれませんが、2016年の障害者差別解消法以来の国としての努力は認められている部分が多くあります。
読むと他国もこれまでの歴史など絡んでいて色々な問題があるなぁと感じます。(例えばニュージーランドは先住のマオリ族における障害支援が進んでいなくて貧困が多いなどが指摘されています。)
「隔離生活」と「分離教育」が問題視
が、今回、「国の政治家・官僚任せにはしておけない!」と、NGOが(他国に比べて桁違いに多い)100人以上もジュネーブに乗り込んだ理由は、やはり日本で遅々として進まないところを訴える目的があったのだと思います。実際、国連委員からの勧告もNGOの主張がおおむね認められたと言えるのではないでしょうか。
勧告を読むと、法律用語の修正から、予算の配分への要求など、多岐にわたるのですが、特に2点が大きく言われています。
一つが「隔離生活」。もう一つが「分離教育」ですね。いずれも主に知的障害や精神障害の人に対する部分です。(※バリアフリーという、障害だけではなく高齢化も巻き込める課題は、予算が付きやすくある程度進んだということなのでしょうかね…。)
数十年間も入院 精神科病院の闇
日本はけた違いに精神科の病床が多く、入院期間も長い国です。
多くの方はご存じないと思いますが、精神科は統合失調症の治療がメインといえ、入院も統合失調症の人たち向けに作られてきたと言ってよいと思います。
しかし世界のトレンドとしては1970年ごろから急速に「入院から地域生活へ」が論じられ、実際ほとんどの国は隔離ではなく、地域で生活をしながら医療や福祉の資源が受けられる形に変化してきています。特にイタリアが有名で、映画などでも複数見られますので、ぜひご鑑賞ください。
が、日本は何を思ったか、世界が病床を減らす中で、統合失調症の人を長期入院させても問題ない病床を作ってきた歴史があります。そしてその病床数はなかなか減りません。
これは国策の失敗とか、医師会の責任だ、と糾弾することもできますが、ここまで何も変わらないということは、世論としても国民が黙認している、むしろそのほうが都合が良いと思っているということなのでしょう。あるいは障害当事者もそちらの方が都合が良いと思っている人も相当いるのだと思います。
「隔離生活」は入院だけにとどまらず、障害がある人が日々過ごす居住場所についても触れられています。残念ながら日本の障害者は隔離された施設で一生を過ごすことが諸外国に比べて多く、その是正も今回求められているのです。
分離教育はなぜ増えているのか?
同根の問題は教育でも指摘されています。つまり障害があるがゆえに分離した教育を受けているということです。
実際、特別支援学校も、特別支援学級も、通級も、いずれも右肩上がりの在籍数となっています。(データはいずれも文科省2019年データより)
子どもが少なくなる中で、特別支援学校の在籍数が増えるというのは、世界のトレンドと超逆行しているわけです。
が、とはいえ、こうなるということは世論も、そして当事者・家族もメリットがあるからと言えます。すなわち今は分離されていたほうが「教育も受けやすくなり」「就職もしやすくなり」「生活もしやすくなる」という状態に、日本はなってしまっているということです。
私の周りを見ても、むしろ特別支援学校に通わせて、確実に障害者雇用で就職してもらいたい。さらには知的障害の認定を受けてグループホームに入ったほうが、安寧な暮らしがおくれる、と考えて子育てをしている親は非常に多いと思います。
つまり形だけインクルーシブ教育を強化しても、当事者・家族が見向きもしない状態になりえます(そしてその状況が今の特別支援教育の隆盛を支えているのでしょう)。そうではなく、仕組・制度・文化から、教育だけではなく、雇用や生活、経済面も合わせたうえで、国連の勧告に答えないと、誰のメリットもない変更になってしまう可能性が高いわけです。
当事者や家族を無視した、形だけのインクルーシブは意味がなく、今は分離教育を選ばざるを得ない事情をまず理解すべきですね。
行き来が出来る社会へ
今回、会議から勧告まで、一連の流れを見ていて思ったのが、「分離」はNGだが「行き来」はOKではないかということです。
すなわち教育にしろ生活にしろ、障害者だからこちらにしなさいというのがおかしいのではないか。例えば障害児であっても、24時間365日障害児であるわけではなく、ある場面で障害の特性が強くである。あるいは受験期など特定の期間に支援がより必要になる、のだと思います。あえて分かりやすく言葉を使うと、「障害児 時々 健常児」とか「健常児 時々 障害児」みたいな感じなわけです。
日本の場合は、生活にせよ、雇用にせよ、教育にせよ、行き来が出来ないのが問題ではないか。例えば、年度の途中でも、通級から普通級に簡単な手続きで変更出来たり、またその逆も柔軟に対応してもらうことが重要なのではないか。そういったフレキシビリティが社会に求められているのではないかと思います。
今回の勧告も、特別支援教育が否定されたわけではありません。むしろ「通常教育の中で個別に特別支援が保証された制度を作ってね」ということです。通常教育を受ける権利を担保しなさいということであり、よりよく学ぶためには時に分離された空間で支援されることは検討されてしかるべきです。
実際、インクルージョンというのは四六時中一緒にいることではないでしょう。違いを認め、時に分けて教育・仕事・生活をし、時に一緒に教育・仕事・生活を受ける権利として、生きた制度や文化が出来るか?
国連から与えられた宿題の回答期限は2028年です。
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴・社長ブログ一覧