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「西梅田こころとからだのクリニック」での放火事件について

2021年12月20日

「西梅田こころとからだのクリニック」での放火事件。西澤先生をふくめ多くの方の命が奪われました。心よりご冥福をお祈りいたします。

今回、先生の人となりを話すということで、新聞・雑誌・テレビなど多数の取材に応じました。このようなニュースの場合、被害にあった側に何らかの恨みを買うような言動があったのではないかと、ニュースを見た人が考えかねないと思ったからです。

私は西澤先生とは数度お会いしただけ(メディアの方は当社が行ったインタビュー記事を見て取材を申し込まれていました)です。メールでのやり取りも含めて限られるほどですし、毎回そのことについてお断りしたうえで取材に応じていました。むしろ何度も先生にお会いしていたのは、当社(障害福祉の就労移行・自立訓練)に通われている当事者の方や当社で働く支援スタッフです。しかしメディアに顔を出して伝えるというのはそれなりのリスクや負担があり、ほとんどの人が嫌がります。また(たった数回しかお会いしていない私のもとに各社から取材依頼がひっきりなしに来るということは)西澤先生が医師仲間などのやりとりも少なくて、どうやら私ぐらいしか先生のことをしゃべる人がいなさそうということが徐々にわかってきました。そこで出来る限り私が代表で取材にお答えしてきました。

精神科・心療内科でのやり取りは簡単なものではないと思います。クリニックには、仕事が続かない、お金がない、心や体が動かない、といった不安や絶望の中で、何とかしてほしいという希望をもって訪れる方がほとんどです。特に医師は、休職や復職の意見書、障害年金や障害者手帳の申請書類、配慮要求の書類など、人生に大きく影響を与えかねない書類を記載することを求められます。しかも患者の要求に従うだけではなく、制度や職業倫理などに基づいて、〇×を判断しなければいけません。患者の意図とは異なる判断を伝えないといけないこともあるでしょう。そういう意味では細かなトラブルは日々あると思われます。

しかし西澤先生はそういう細かなトラブルもおそらく少なかった先生だと思います。私の眼から見た先生は、メディアに伝えた通りで卑屈なまでに謙虚で、口数少ない方でした。むしろ人付き合いを避けるぐらいの方だったかもしれません。先生の言動は、恨みを買いやすいどころか、その真逆にあるような方だというのが取材で繰り返しお話ししたところです。その目的はある程度達成できたかなとは思っています。逆に言うと、なんでこういう先生に限って、殉職をしなければならないのか?それとも先生への恨みではなく他の動機があるのか?なにもかにも犯行の動機が全くわからないというのが正直なところです。

取材に答えたもう一つの理由は、障害がある人だから犯行に及んだのだろうという誤解を解くためです。

こういう犯罪行為がおこるとすぐに精神障害・発達障害の人は犯罪を起こしやすいというような先入観が巻き起こりかねません。エビデンスはむしろ逆なのですが…、私や福祉の人間、そして何より当事者・家族は、被害者の心を思うとともに、社会の目が厳しくなると感じてしまうところがあります。もちろん、発達・精神の人たちはむしろ落ち着いた平和な状況を望む方が多いですので、犯罪とはかけ離れたところにいる方々です。今回は先生のクリニックに通院歴がある男が犯人とのことですが、それは日本の人がテロを起こしたときに日本人がみなテロリストになるかというぐらい乱暴な話。診断のあるうちの99.99…%の人は普通に暮らしていて、ごく一部の例外中の例外の人だけが犯罪行為につながっているような状況ですので、障害や診断とここまで悪質な犯行の間には連続性が無く、別物に感じます。取材に応じたこの二つ目の点はこうした誤解を解くためです。ただこの2点目についてはどこまで伝わったか実感がありません。今後も繰り返し繰り返し伝えていくのでしょう。

それにしても同じような手口で無差別に近く殺害を企てる社会の流れに不安を感じます。今後、日本の司法によって裁かれ罪を償うのだと思いますが、一人一人の加害者の問題だけを見ていても解決はし切れず、はぐれ者を生んでしまう社会システムがいびつすぎるのかもしれません。加害者にフォーカスをあてる行為は司法や犯罪心理の専門家に任せつつ、社会の何がおかしいのか、それを我々一人一人がどう意識や行動を変化させると、異常な犯罪を防ぎやすくなるのかという、高い視座の議論や行動も必要だと思います。

先生は、ご本人の控えめな、内向的ともいえる性格ゆえに、発達障害や精神障害の方などに共感をされ、それを一つのエネルギーに診察に勤しんでいらしたのかなと予想しています。つまり、先生は医師免許があることで仕事を通して社会と接することができていたともいえるかもしれず、患者の境遇とは紙一重でもあるな、なんとかきっかけをつかんで職場という社会の接点を獲得してほしいなという思いがあったのかもしれません。

先生が診ていた患者は600人と報道されています。そのうちに、当社の訓練生や修了生など関係者は何人もいます。我々にできることはまず彼らの心のケア、そして次のクリニックなどへのトランジションを手伝うことです。すでに大阪のスタッフを中心に、対応資料が作られています。本当はそのリストを公表しようと思いましたが、ご迷惑が掛かるので諦めました。例えばこのクリニックは発達障害に詳しいので引き継いでもらえるのではと紹介するのは先方に確認しない限り難しいためです。大阪市に特別の相談窓口が出来たり、府や市の発達障害者支援センターでも相談を受け付けてくれると思いますので、カルテや今後の診療で不安に思う方はぜひ連絡を取ってほしいですし、Kaien関係者の場合は直接当社スタッフに連絡いただければサポート体制を整えています。

実は、先週末はこの年最大のイベントへの登壇や、10年ぶりに取締役が変わる株主総会や、家族の誕生日やらで、もともと盛りだくさんな中で取材を受けました。取材を受けた動画などは一切見ていないのですが、たまたま過密な週末の中でのやり取りだったため、雑な受け答えになってしまった部分があるかもしれず…。こんな取材で本当に大丈夫なのかなと心配になる記者・ディレクターがいる一方で、丁寧に取材したりニュートラルに取材をする態度だったメディア関係者には頭が下がりました。ぜひ良い報道につなげて頂き、皆さんの中で良質な議論が続いたり、法の改正や運用修正に繋がったりしてほしいなと思います。ただの事件で終わらせないことが先生の気持ちを受け止めるうえでも大切だと思います。

改めまして、今回の事件で犠牲になられた方やご遺族の方へお悔やみ申し上げます。

 

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス「TEENS」
大学生向けの就活サークル「ガクプロ」就労移行支援および自立訓練(生活訓練)「Kaien」 の立ち上げを通じて、これまで2,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴

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