話題になっている NNNドキュメント「障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件の間に~」を見ました。
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界隈で話題になっていたNNNのドキュメンタリーを見ました。日テレ系のドキュメンタリーですね。一部では再放送取りやめを求める声もあったほどいろいろと反響があったようです。
NNNドキュメント「障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件の間に~」
いくつかリンクを貼っておきます。
メディアリテラシーが必要な番組であることは確か
感想としては、(Nスペとかクローズアップ現代とかNHKのドキュメンタリーと違って)、NNNドキュメントはお金の無い中で頑張って取材したんだろうなぁ、なのでかなり内容が薄いなぁ、強引だなぁという感じです。きちんとした背景理解のもとに制作側の状況を考えながら、つまりメディアリテラシー高く見れば、制作側が伝えたかったことはある程度分かりますが、多くの人は怒るのは当然かなぁと思いました。見る側にも見る力が必要というわけですね。
いくつか僕の目(かつてNHK勤務です)からポイントを。
【1】 柳楽優弥さんのナレーションが良くない
柳楽優弥さんというのは俳優だそうです。そういえばカンヌで賞をとった方だったと思い出しました。この方のナレーションがまあ良くないです。ナレーションは番組の、まさに”トーン”を決めるので重要です。今回のナレーションの場合、非常に暗く、じめじめとした感じの声。かつ、「ああ、この人自閉症スペクトラムのこと理解せずに原稿を読んでいるだけだなぁ」という印象を(少なくとも個人的には)抱いてしまう浅いナレーションでした。宮沢りえさんとか女性の声のほうが良かったと思うのですけれどもね。。。そもそも柳楽優弥さんがそう読みたかったわけではなく、ディレクターの好みかもしれないのですが、いずれにせよナレーションはかなり反感を買ってしまった一つの要因に思いました。
【2】 音楽や撮影がおどろおどろしい
どうしてもこういうドキュメンタリーはぼかしを使うので、なんだか向こう側の、閉鎖された、見えない世界の話だなぁと思われやすいです。今回もかなりの時間がぼかしを使った編集だったので、一般社会からは遠い、怖い世界の話だなぁという印象が強めだったと思います。それに輪をかける感じで、音楽や撮影方法が、たとえば「暴力団の闇を探る」というようなテーマと同じような仕方だったので、この辺りはディレクターの好みが悪いなぁと思いました。まあわざとかもしれないのですが、誤解されやすくしたのは確かなので残念だったと思います。
【3】 構成がミスリード(誤解を生む)
今回の構成は以下のようなものでした。
■番組ウェブサイトから
「人を殺してみたかった」2年前の佐世保女子高生殺人事件の加害少女は、動機をそう語った。少女には自閉症スペクトラム障害の鑑定結果が出た。しかし、障害がそのまま少年事件に結びつくわけではない。「二つの間には、プラスαの要因がある」と専門家は語る。“プラスαの要因”とは何か。触法少年たちの生の声を聞くことで、“生きづらさ”の正体を探る。また矯正施設では国内初の再犯防止プログラムにも密着する。
■鈴木まとめ(番組の構成・流れを鈴木になりに順番にまとめました)
・佐世保女子高生殺害事件 自閉症スペクトラムと殺人について
・自閉症スペクトラムと犯罪が一対一対応ではない点について (障害+αの話)
・矯正施設にいる触法少年たち 自閉症スペクトラムの多さ
・触法少年たちを題材に 自閉症スペクトラムの事例・説明 特に認知のズレについて
・医師による介入方法 本人や親への支援 認知のズレの根っこへの介入
・コグトレという認知改善方法の紹介
自閉症の説明をした後に犯罪という流れでは、それは因果関係と思われますよね。いくらコメントで頑張って柳楽優弥さんがしゃべったとしても、編集の力で先に提示されたものが原因で、後に見せられたものが現象、という日常ある法則性を否定する力はないと思います。かつ、最初に佐世保の女子高生殺人事件が来るという悪い意味でのインパクトの強さもある構成でした。
つまり、『自閉症スペクトラム → 犯罪』ではなく、『犯罪→様々な要因→その一つに・・・』というのが本当の流れのはず。が、順番を間違った?というかそうせざるを得なかったために多くの人をミスリードしたのだと思います。
制作側としては「コメントでこう(障害がそのまま少年事件に結びつくわけではないと)言っているだろう」と主張するかもしれません。が、それはやや言い訳じみていて、編集・構成が下手だなぁというのが印象となります。まあ実際僕が編集をしようとしたとしてもこの順になったかもしれませんが、もう少し工夫は無かったのかなぁと。
【4】 データが端的・強引すぎる
これはテレビの性なんですけれどもね。。。繰り返し同じデータを使って視聴者を誘導していく、刷り込んでいくのは。。。
矯正施設にいる少年のうち調査したら自閉症スペクトラムの診断域にあるのが75%だったとか、自閉症スペクトラムの人が虐待を受けると(たしか)3倍、ネグレクトだと(たしか)6倍の触法率が高まるとか、数字が出てきます。
が、これってどうなんでしょうか?75%の数字は、この界隈では高名な杉山登志郎先生のデータのようなので異議を唱える方がNGだとは思いますが、でも全国の数字ではなく一つのデータだと思います。本当にかけらのデータだけで全体を語ってよいのかと感じられました。
それに、『自閉症スペクトラム+α』の部分で「虐待」や「ネグレクト」が出てくるわけですが、これって、別に『いわゆる定型発達+α』でも、「虐待」や「ネグレクト」があると触法率って高まるのではないのかなぁと思うのですよね。そのあたりの関係性を一部分だけしか見せないのは、やはり強引というか怠慢というかだと思いました。
【5】 つまり、自閉症スペクトラム・発達障害の話ではなく、愛着障害の話では
佐世保の例でも、親の特異性が話題になっていたと思います。この事件に関しては子どもの話ではなく論点は家庭の話なのだと思います。そして今回の番組を見ていても、実は親子の関係が特に強調されていました。それはそうですよね。。。自閉症スペクトラムの問題ではなく、親子の課題だと番組を見て思ったからです。
つまり番組のタイトル的には
(自閉症スペクトラム)障害+α
虐待やネグレクトなど親子の問題(→愛着障害) + α
実際、愛着障害と発達障害は非常に見分けにくいと専門家も仰っています。番組に出てきたデータの自閉症スペクトラムの少年が矯正施設の75%をしめているとありましたが、自閉症スペクトラム的な言動をしても、それって実は見た目似ているけれども、先天的な発達障害ではなく、後天的な愛着障害が本当で、自閉症スペクトラム的に見えているだけの人も相当数いるのではないかなぁとも思いました。
愛着障害・アダルトチルドレン http://www.kaien-lab.com/aboutdd/mental/#adult
最後に
日々日々福祉の現場にいると親子の関係が本当に子どもに影響するのは身にしみて感じるところです。自閉症スペクトラムとか新しい言葉に安易に飛びつかずに、古くからの家族・親子に注目しようねというメッセージで締めくくりたいと思います。
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