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発達障害は最も就職支援が簡単な障害になったのか? 2018年社会的価値リポートKaien社長ブログ

2018年12月31日
 

年末です。30日は早めに年末年始の休暇を消化し、大晦日ではありますが仕事始め的な印象です。2019年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、当社ではその設立背景もあり、ウェブサイトでこれまでの社会的価値を掲載(「会社概要」の下部)しています。そして毎年年末年始の時期に、当社が社会にとってどの程度の経済的な価値をもたらしているかをデータと共にまとめています。本ブログはその2018年版です。

【参考】昨年のレポート → 社会的価値が10億円の大台へKaien社会的価値 ~2017年を振り返る~

年間2.2億円を社会に還元

結論から言いますと、2018年は2.2億ほどの価値を生み出した計算となります。これまでの9年間を合計すると12.7億円になります。下記がファクターです。

  • 今年も200人以上(220人 ※就労移行支援だけではなく大学生支援のガクプロ含む)を就職に導けたこと。
  • 就職者が1,100人を越えた「納税者」となった人たちが増えていること。そして定着率が1年後でも95%程度と高いこと。 
  • 給与が全体的に上がっていること
    • 修了生が順調にキャリアを積んで平均給与が上がってきていること。全体で1万円/月の昇給がデータで確認できていること。
    • 半数が給料1ヶ月分程度(20万円程度)の賞与も受け取り始めていること。
  • 一部の人は就職することで生活保護から抜け出している人も引き続き多いこと。(親に生活を頼っている人が就職する経済的価値に比べて、5~10倍も生活保護(つまり国)に頼っている人が就職する経済的価値は高いのです)
  • Kaienが法人として法人税や従業員の給与を通じて社会に還元していること。(今年も無事に納税ができました)

これらを合算することで今年は2億円、そして総額は12億円超を、グロスではなくネットで返納している(つまり当社は障害福祉事業者なので税金を使って支援活動をしているのですが、その分を考慮に入れても過去10億円を優に超える額を国庫に返納していることに等しい)ことになります。

定着率NO.1 「1年後も70%」の衝撃

ではこの2億や12億という数字をどう評価するか。高いのか低いのか、意味があるのか無いのか。(実は同業他社の数字も入れてみたことがあるのですが、多くはマイナスになります。なのでプラスの数字が出ている事自体に意味があるかもしれませんが、その先を考えたいというわけです。)

ある統計をご紹介したいと思います。それが今年前半に私が知ることになった「障害者の就業状況などに関する調査研究 」(2017年 JEED)です。それによると当社で支援した人たちの定着率よりも低いものの、発達障害というのは障害者雇用の中ではもっとも定着が期待できる、語弊を恐れずに言うと最も支援が簡単な障害ということになります。人事ご担当者様向け 障害者雇用無料セミナーでもご案内しているとおり、”発達障害推し”じゃなくても、これから雇用するならば身体障害でも知的障害でも他の精神障害でもなく発達障害が良いというのはデータから読み取れる結論となります。

1年後定着率 研究結果(2017年 JEED)

  • 発達障害 71.5%(参考Kaien実績:95%)
  • 知的障害 68.0%
  • 身体障害 60.8%
  • 精神障害 49.3%

当社が創業した2009年は「最も難しい障害と言われた」のが発達障害です。それが10年もしないうちに最も簡単になるというのは嬉しいことでもありますし、一流の支援ではなくてもそれなりに就職や定着の支援ができるようになったということでもあると思います。今回の文脈で言うと、いくら2億円、12億円という数字を出そうが、それはどの業者でも簡単に出せるのではないかと思われかねないということです。

社会的価値を更に向上させるため Kaienの2019年

ですので、今後は当社はもう少し数字に現れないところを強化しないといけないと思っています。具体的には下記のことを考えています。そして実際に手をうち始めています。

①さらなる月給UPを果たす

現在は当社の場合3割程度である月給20万円以上の人の数が多くなることです。

一般枠のほうが高いことが多いですので、今は10%程度の一般雇用の比率を高めることも一つの手でしょう。実際、今年開設した、当社ではじめての首都圏以外の拠点であるKaien大阪天六では5人の就職者のうち4人までもが一般雇用での就職でした。あくまで通っている人の希望に沿ってナビゲートはしていきますが、首都圏でもこの方向性が強くなると予想しています。

あるいは障害者雇用でもIT・ウェブ・デザインなどの専門職がより求められるようになっている時流に逆らわないことも重要だと思っています。当社もクリエイティブコースでITやデザイン、マーケティングなどの創造性が求められる部分を強化していこうと思っています。

②就職を目指す人を増やす

現在障害者雇用率は上がっているものの、障害者のある人(障害者手帳がある人と定義)で18~64歳の「現役世代」は400万人ほど。しかし働いているのは50万人ほどです。(参考 厚労省 障害者の状況

相当数がクローズド(障害者手帳を持ちながらも一般枠で障害を告げずに働く)と考えても、2割程度しか働いていない状況であり、この課題に寄与することは重要でしょう。

つまり空前の人手不足、特に障害者雇用はその傾向が強くなっています。今まで働けないなと思っている人も、実は能力的には十分。足りないのは、これまでの失敗経験で働く意欲が出てこないメンタル面という、なんとももったいない状況が今の日本では頻繁に出会う光景です。二次障害で苦しむ発達障害の人にも希望を感じてもらえるような雇用事例、あるいはそういう人をスモールステップで支援する専門性、このあたりを当社がつけていきたいと思っています。

③そもそも二次障害になる人を減らす

が、本来は二次障害で苦しむ人が少なくなれば②の問題も減少する(つまり大人になって働く意欲が出ないほどまでにならない)はずです。そこで考えたいのが子ども時代の療育です。

先日、当社取締役で教育部門の責任者である飯島が、TEENS(当社の放デイ)のブログで言及している通り、実は2億円や12億円という数字には、まだ教育事業は貢献していません。というよりもコストとしてしか計算できていません。というのも、納税者になるということで直接に国庫に還元できる大人向け事業と違い、子ども向け事業の社会的な価値はあいまいで今のところ算出をしていないからです。

違う言い方をすると子ども向け事業がなければ、今年だけで4億、累計ですと20億円近い数字になっていたはずですが、子ども向けのポジティブな側面を数値化出来ていないために、それぞれ2億、12億という数字に落ち着いてしまっているのです。つまり、2018年の数字では2億円は子ども事業をするうえでの負債になっています。逆に言うと、2億円の価値があればTEENSの事業は社会的に存続させることが合理的になります。

仮説を重ねる形になりますが、簡単な計算で2億円の価値があるかを考えてみましょう。下の飯島によるまとめでは、「TEENSに通うと二次障害の発生率が80%も減少する(42%の発症率が9%未満になる)」となっています。

【参考】 二次障害発生率に5倍の差!子どもの発達障害 支援の社会的価値は?

TEENSに今年通い始めたお子さんを120人とすると(大体600人ぐらいが今通っていて、平均5年間通っているとすると今年通い始めた数は理論的に120人になります)、120人のうち33%(42-9で33)のお子さんの、将来的な二次障害発生を抑えられたとすると、120×33%=40人分が2億円と釣り合う必要があります。一人500万円ですね。

大人になって二次障害が出ず働ける人が純粋に40人増えるわけではないのですが、一定数はまったく働けないのが働けるになったり、働いている人も医療費や福祉の費用が低くなったり、を考えますと、将来の価値の毀損を未然に防ぐということは計算値として出しても良い気がしてきます。このあたりの計算式である程度納得できるものが作れれば、2019年の当社発表の社会的価値は大きく跳ね上がるかもしれません。

④雇用増に繋がる仕組みを提案 企業をエンパワメントする

もちろん本人向けのサポートだけではなく、企業の取組のサポートも必要です。雇え雇えと言っても戦力にならなかったり、あるいは二次障害をひどくするばかりで自尊心を落としてしまうような雇用ならばしないほうがましといえます。(※官公庁の にわか障害者雇用 がそうなるのではないかと恐れています)

80%ほどとも思われる、障害者手帳を持つけれども働いていない「現役世代」を減らしていくためには、企業の雇い方の分野でも間口を広げる必要があります。本業で忙しく、なかなか障害者雇用を安定させられていない会社でも、比較的容易に導入できる仕組みを提案することで、当社の社会的な価値も高まると思っています。ここはまだ発表できないですが、動き始めている部分であり、良い成果をご報告したい部分です。

ちなみに、学校へのサポートも2019年にスタートさせる予定です。これによって、放デイの中だけではなく、学校の中(そしてそこが多くの場合、二次障害を発生させる場所になっているのですが)での居心地の良さに繋がっていくと思います。

2019年はどんな年に

2019年。Kaienは10周年を迎えます。

Kaienは3歳だった息子の診断をきっかけにはじめました。彼もなんと受験生。時の経つのは速いものです。

発達障害界隈の動きも非常に速い。当社も価値を更に高め、斬新な視点で業界を引っ張る一員となれるようがんばります。

2019年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA) 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴社長ブログ一覧

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