障害児の就学支援 障害に合わせたガイドライン作成についてガイドラインよりも市場原理では?
2000億円の税投入の価値があるのか?
厚労省が、各地の行政が、障害児に向けたサービスの質の悪化について懸念を抱いているようです。
障害児支援の在り方に関する検討会も2年前に開かれましたし、昨年は障害児通所支援に関するガイドライン策定検討会が開かれてガイドラインが策定されました。ここ最近もNHKで『障害児の就学支援 障害に合わせたガイドライン作成へ』というニュースが出ています。厚労省が行った「第1回児童発達支援に関するガイドライン策定検討会」(2016年11月28日開催)についてです。検討会で配布された資料はこちらです。
資料を見ればわかりますが、障害児向けに税金が(自己負担を1割程度だとしても)2000億円ほど投入されているものの、他方で障害児支援がどのように価値ある税金の使い方になっているかが制度創設以来の課題なのだと思います。
以前も書いた通り、当社も放課後等デイサービスをしています。個人的にも税金をいかに使っている業界なのかは説明責任があると思っていますし、厚労省と同じように業界が変なサービスによって席巻されそうな危機感があるのは確かです。(参考:親としてできること 支援者としてできること 経営者としてできること)
ただ個人的には厚労省や検討会の方向とは違うほうになってほしいなと思っています。
そもそも何が問題か?経営者と支援者だけが悪いのか?
今問題が何なのかは明らかです。①障害福祉の意義を理解していない経営者が多く、②支援の力を育む環境がないなかで支援者が雇われ続け、③お預かり程度で良しとする保護者が多い中で、レベルの低いサービスが放置されている、ということだと思います。
とくに①・②への批判が強いことがわかります。実際資料を見ても、ガイドラインを見ても、そして報道を見ても、”株式会社”など拝金主義の経営によって崇高な福祉の世界が汚されているのではないか? きちんとした支援というのがわからない中で現場で働かないといけない人が支援者として育っていないのではないか?、ということが直接・間接的に書かれているように思います。
ただ僕が思うのは上述の③もかなり多いと思います。つまり(専門家が見ると)レベルの低いサービス(つまり障害の特性を理解してその子の力を伸ばしてくれるようなサービスではなく、単なるお預かりの機能)で良しとする人が多いのだと思います。障害のある子どもがいても、じゃあこの子の人生のためにできる限りをしようと思える親は実は少数で、ご自身の生活が精いっぱいということもあって子どものことまで気持ちが追いつかず、数時間預けられればそれが良い(むしろそれが第一の希望)という人が多いのだと思います。
ガイドラインよりも制度設計では?
ただし個人的には①・②を補正しようとしたり、③を教化しようとしても難しいのではないかという感覚です。むしろそもそも制度設計に仕掛けが必要なのではないかと思います。つまりガイドラインではなく、報酬単価をいじくってほしいということです。
以下僕の考えのまとめです。
なぜ①が出るのかというと、素人でも簡単に儲かるからです。実際「放デイ」「フランチャイズ」とGoogle検索をしてみてください。たちまち様々なフランチャイズ経営が出てくると思います。
つまり「自分、経営したいな、金持ちになりたいな、社長になりたいな」と思う人が、カラオケボックスしようか、コンビニしようか、居酒屋しようか、というときに、放デイしようかという選択肢がある時代になっているのです。
フランチャイズを募集するページには「どれだけ有望な市場か、儲かるか、初期投資が少ないか、リスクが少ないか」という、御幣を恐れずに言うと金儲け目線で彩られています。そういう条件に惹かれる人が、福祉事業所を経営するとそれは今までの福祉系とは違ったカラーになるでしょうということです。
だが、さすがに「なので儲からないようにしてください」とは、福祉の経営者としては言えません。じゃあどうしてほしいのかというと、「いいサービスじゃないと参入できないようにしてほしい」というのが僕のメッセージです。だから「ガイドラインなんですよ!!鈴木さん!!」と思われるかもしれませんが、ガイドラインを伝えて素直に従うような事業者だったらすでにしているはず。対策はそうじゃないと思うのです。
簡単に言うと僕は価格をいじればよいと思っています。
放デイや児童発達支援の”経済学”を理解した「毒を以て毒を制す」作戦
今はお子様が通うと1回ごとに1万円が事業者に入ります。ただし1万円のうち税金は9千円、自己負担は1割ですので、つまり親の負担は1千円のみです。通常、障害のない子のお預かりでは1日に数千円はかかると思います。それが何時間居ても1千円なのですから、やはりどんな劣悪なサービスでも、一般の学童保育を使うよりも、放デイを使うという選択肢が親としては魅力的に見えるでしょう。なにせ圧倒的に安いですから。。。かつ一般の学童保育などよりも放デイのほうが障害を最低限は理解してくれるというところもあるでしょうから。。。
そこで僕の提言は自己負担を上げるということです。
例えば保護者の負担を3割負担とか5割負担にすればどうでしょうか?そうすれば(A)税金の負担も減りますし、(B)事業者の売り上げも減りません。保護者の負担は増えるわけですが、1千円ぐらいの質ではサービスを使わなくなり、3千円や5千円の価値のあるサービスじゃないと、子どもを任せるということはなくなるでしょう。
つまり消費者からの目が厳しくなります。そうすれば市場原理に生き残れる質の高いサービスだけが業界に残ると思います。この市場原理に任せることこそが、小泉政権のころに大変革をした自立支援法の精神に基づく部分だと思いますし、専門家や厚労省の人が求める質の高い支援が残ると個人的には思います。
一部の方は低所得層の人が障害福祉サービスを使えなくなるのではという懸念を抱く方もいると思いますが、実はそれはそれほど心配ありません。というのも所得に応じて、今の制度でも、上限制限があります。つまり1回あたり3千円になったとしても、ある一定の所得以下の人は、月額○○円以上は払わなくてもよいですよという上限があるのです。(つまり上限に一度達すると、その月の中ではそれ以上は何回福祉サービスを使っても追加料金なしという制度です。)
自己負担を上げるというのは決して奇想天外な考えではありません。すでに高齢者の医療費の自己負担を増やそうという動きは厚労省で出ていて、自己負担+税金+(保険料)の仕組みである医療・福祉の世界では自己負担のパーセンテージを変えるというのは、今後の税金負担を減らす一つの方策であるのは事実です。(参考:高齢者の医療費 自己負担上限引き上げ措置示す)
悪質経営者が市場の原理の抜け穴を活用して儲けていて、厚労省の意図を崩すのならば、その市場原理という”毒を以て毒を制す”ではないですがそういう刀の返し方が有効なのではないかなと思っている次第です。