木下優樹菜さんのADHD告白とqEEG(定量的脳波検査)の信ぴょう性qEEGは診断に使えるの??本来使われるべき検査とは?
昨日、当社のADHDの解説記事(下記リンク参照)のアクセスが多いなと思ったら、タレントの木下優樹菜さんがADHD告白したYouTube動画をアップしたとのこと。
LINEニュース・Yahoo!ニュースなどで取りあげられ、検索した人が多かったようです。
qEEGは診断に使えるの??
木下優樹菜さんが診断基準に当てはまるか、そもそも木下優樹菜さんの過去の言動が発達障害と関係するのかなど、ネットで騒がれているようですが、この記事ではそれには触れません(し、私自身が医師ではないので当然診断やそれに類することはできません)。
しかし彼女の告白動画を見て気になったのが、qEEG(定量的脳波検査)を診断の根拠に喋っている、と思われたところでした。
たしかにqEEGは脳波などに比べるとカラーで素人でも分かりやすいですし、感覚的に理解できる部分もあるかもしれません。しかし信頼できる医師のみなさんに聞くところでは、画像で診断というのは「あり得ない」です。
追記:早稲田メンタルクリニックの益田先生も下記の通り投稿されていますね。
同じ発達障害といっても、様々なタイプがいて、こういうタイプの方もいます。ちょっと失礼な感じがして、若い治療者はイラっとしてしまいがちですが、相手の内心はすごく傷ついているわけです
動画内にあるような、脳検査で発達障害がわかるわけではないので、ご注意ください#木下優樹菜 #ADHD https://t.co/CUGOXkwFK8
— 精神科医益田裕介@YouTube@精神科医がこころの病気を解説するCh@早稲田メンタルクリニック (@wasedamental) July 26, 2022
本来、発達障害関係で使われるべき検査とは?
じゃあどんな検査ならあり得るのかというと、通常、診断・診療の際に使われるのは下記のような検査です。知能検査と、そのほかの検査に分けて記載します。
知能検査
- WAIS → 大人の発達障害の診断の際には、多く(ほとんど?)の場合、検査される。(解説記事:知能検査とは? 大人の知能検査 WAIS-Ⅳ を読み解く)
- WISC
各種検査
- Vineland(適応行動アセスメント)
- MSPA(発達障害全般) → 診断名に左右されづらい。専門用語なく素人でも分かりやすい。(解説動画:発達障害の新検査 MSPA(エムスパ)とは?)
- AQ(ASDアセスメント)
- PARS(ASDアセスメント)
- CARS(ASDアセスメント)
- CAARS(ADHDアセスメント) → 今回だったらqEEGよりもこのような検査をしたほうが良いのでは?
- ADHD-RS(ADHDアセスメント) → 今回だったらqEEGよりもこのような検査をしたほうが良いのでは?
- LDI-R(LDアセスメント)
どうやら今回の診断は上記のような(通常診断・診療に用いられる)検査をせずに、一足飛びで画像だけで判定したような気がしていて、大きな懸念を持ちました。
もし根拠ある診断が欲しいのであれば、下記のインタビューにある通り、林先生のようなクリニックに行って半年程度しっかり様々な検査を受けたうえで診察というのがベストでしょう。つまり検査するにも様々あり時間がかかるし、そもそもqEEGは検査の項目に入っているところは私の知る範囲ではほとんどありません。
例えば脳波について林先生は下記の通りのご見解です。
「脳波で発達の問題が鑑別できないかと思って15年ずっと見ていますけれども、脳波だけで発達障害なのかその他の障害なのか判別するのはできないというのが結論」(下記記事より)
発達障害の界隈にもステルスマーケティングの到来か、あるいはニューロダイバシティの概念の浸透か?
邪推すると、今後は、芸能人が簡易的に発達障害を診断しよう、みたいなノリで、某クリニックを訪れて、ステルスマーケティングみたいなのをしていくのでしょうか?それをYouTubeにアップして、偏った情報のみに接した人たちが、クリニックに行って、発達障害を診療されたりするのでしょうか?今回の告白はそのきっかけになるのでしょうか?あまり考えたくない未来です。
一方で、たしかに10人に一人程度は発達障害の特性があるわけで、自分は○○の苦手さがある、とニューロダイバシティ的に考えられるのは悪いことではありません。ニューロダイバシティとは
「一人一人の顔や身体が微妙にすべて異なるように、一人一人の脳も異なっているという前提から、発達障害を障害を越えて脳の多様性を理解し、社会に包摂しようという考え」(下記記事から)
です。
これまで人間は画一的な脳をしているという前提でお話しが進むことが多く、せいぜい「頭が良い、悪い」「正確が良い、悪い」「コミュ力がある、ない」「やさしい、厳しい」ぐらいでしかタイプ分けされていなかったものが、発達障害的な、つまり機能的な捉え方をすることで、感情抜きに理性的に人の多様性を捉えられるようになるということかもしれません。
今回はそういう社会包摂への一歩なのでしょうか?誰もが気軽に自分のタイプを知るため(それにしても違う検査が良いと思いますが…)の流れなのでしょうか?だとしたら歓迎したいですね。
最後に、ニューロダイバシティという言葉にたどり着いたので、その名前の入った当社イベントを軽く宣伝をして締めくくりたいと思います。発達障害に関するちゃんとした知識や情報、お伝えしていきます。ぜひお越しください! →ニューロ・ダイバーシティ サミット JAPAN 9月に開催決定
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴・社長ブログ一覧