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自分と向き合うことでたぐり寄せた幸運~私とKaien 第16話~

2018年7月30日

 『私とKaien』は当社の就労移行支援を利用していた訓練修了生や、ガクプロやTEENSをご利用中のお子様を持つご家族など、Kaienと一緒に発達障害の魅力を世の中に広げていただいている方々へのインタビューシリーズです。

 第16話は、思春期から季節的な気分の波に悩まされつつも、就職を決め既に3年目。仕事もプライベートも日々進歩を心がけるAさんにお話を伺います。

高校生の頃から働けるかどうか不安でした

 中学生くらいから冬場は鬱っぽくなりましてね。高校に上がっても休み休み、何とか通っていました。将来、本当に週5日フルタイムで働けるかな、って不安がありました。大学に進学してからは、車の免許を取ったり旅行をしたり楽しく好きなことやっていたように思います。勉強は好きなんですよね。本当は大学院に行きたかったんですが、妹が芸術学部に行くのでお金がかかるから、ということで諦めました。社会に出るのに少し不安もありました。社会人になると立派な大人のイメージ。悪い人もいるし。僕なんかうーん、だまされちゃう。罠に落とし込まれるんじゃないか、って感じで。

 就職は、都内のタクシー会社に事務職で入りました。募集要項では8時半始業なんですが、僕が配属されたハイヤー事業部の支店では慣例的に7時半に出勤です。早出1時間は残業としての請求ができない。終わりは新卒で早く帰れても8時、9時。先輩は夜11時過ぎまでです。入社して3か月くらいで参ってしまいました。喘息が昔からあるもので、医者から無理ですよ、と言われました。

 その後保険の勧誘営業をして、市役所職員だった叔父の勧めもあり会社を辞め一念発起して公務員試験に挑戦しました。これは上手く行きませんでしたね。若年トライアル雇用で入った会社も、社長から営業向いてないよ、って言われて。その後は塾の先生のバイトをやったりして、最終的には生活保護世帯の教育支援の仕事に就きました。家庭訪問をするとほとんどがシングルマザーや外国人。こんなに悲惨な話があるんだ、というお宅も沢山ありました。能力的にも人間関係的にもきつかったですね。その時に支援員向けの研修があり、もしかしたら僕自身が発達障害かも、と思ったんです。親からは精神科は世の中の偏見もあるので、できたら受診して欲しくない、と言われて。それで自宅から少し離れた自分に関係のない場所にあるクリニックを見つけ、発達障害と診断されました。

自分の得意と苦手に徹底的に向き合ったKaien時代

 Kaienは発達障害についてネットで調べていて見つけました。他の事業所もいくつか見学しましたけど訓練のレベルが低く就職できる気がしませんでした。Kaienは発達障害専門だし、Kaienにつながれば何とかなるんじゃないか、安定した就職へのきっかけが掴めるんではないか、という思いがありました。

 訓練では「週替り」(週単位で別の仕事を体験するプログラム)や「こしょこしょ」(オンライン店舗で実際に古書を売る)をやって、正直な所、今更なんでこんなビジネスマナーみたいなことやらなくちゃならないんだろう、と思ったこともありましたが、自分は何が得意か。働く上で障害になることは何か、に徹底して向き合いました。こしょこしょで店長をやってみると周りの訓練生の特性が見えます。「この人はここは得意だけど、急に振るとパニックになる」とか。「なるほど、じゃ、自分はどんな特性があるのかな、仕事する上で何に気をつけなくちゃいけないのかな」と気づくようになりました。

 一番印象に残っているプログラムは営業ゲームですね。疑似的に営業をして、仕入れをして色々な人とやり取りをして、売り込んで・・・、という中で「へえ、発達障害の苦手にしてるところを教材にするんだ」と驚きがありました。みんなで頑張って取り組みました。チームワークってあまり得意でなかったんですが、身についてきたように思います。

 世間では発達障害について知識のある人は限られている中で、Kaienのスタッフは医者とは違う専門家集団でした。つどつど有意義なアドバイスをいただきました。自信喪失だった僕を褒めてくれたことも良い想い出です。スタッフのMさんからは「朝の挨拶が中堅みたいだから、もっと元気よく入ってきては?」と言われたんです。それからずっと爽やかな挨拶を心がけていたら、今の職場で「朝の爽やかな挨拶がいいね」って褒められたんですよ。

意外だった本当の適職 偶然の出会い

 就活は決して順調ではありませんでした。ハローワークの合同面接会もKaien求人にも応募しましたが、職歴が長くて2年、他は3か月ずつとかかなり入り組んでいるので、書類選考で落とされました。過去は消せないので、職歴だけしか見てくれないのは悔しいなと。

 今の会社は大手総合商社の特例子会社です。ここに入れたのは本当に幸運でした。Kaien合同面接会(Kaienの訓練生限定の面接会)にも来ていたのですが、応募が遅くて受けられませんでした。でもスタッフの方からは「この会社好みの人物像なので、最後の切り札に持っておくといいよ。」と言われていたんです。他社の書類選考も上手く行かない中、実習だけでもさせてもらおう、ということになりました。12月の年末調整の時期でしたね。帳票の数字をチェックする、という仕事は相性が良かったようです。書類の細かなミスを沢山見つけ、担当者から「丁寧な仕事で助かった」と言っていただきました。

 「さて実習は終わったけど、就職困ったな・・・。」となっていたら、ちょうど、今、僕がいる経理のポジションで退職する方がいて、それで僕に声が掛かりました。実は経理は合わないかもしれない、ずっと数字を見るのは注意力も集中力も求められるし体力的にきついだろうな、と思っていたんです。だけど、たまたま空いたのが経理の職でした。

 今は「こんなに経理にはまるとは」という感じです。経理の面白さですか? 様々な経費を自分で集計して、(総勘定)元帳と合わせてみても一発目は大体合いません。この数千円、時には数十万円、集計と元帳で合わないのは何かな、と地道に調べて行くのですが、最近は慣れてきて、すぐ分かるようになって来ました。色々調べてピタっとはまったとき、パズル解くような楽しさがあります。

力を蓄えて、自分らしく働きたい

 人に「東京の大手町で経理やってます」というとカッコイイじゃないですか(笑)。自信を持って会社の名前を人に話せる点も働くモチベーションになっています。今はまだ嘱託ですけれど、前職の一般枠時代と同じ月給をもらっていて、待遇の面でも満足、それ以上に職場のみんなが親切で優しいところに大変助けられています。

 一番嬉しいのは、伝票をどう起票したらいいですか? これ間に合いますか? 期限までに支払えますか? この契約書は印紙要りますか? などなど、日々様々な相談や連絡が僕のところに来て、千手観音のように、こっちに返事、あっちにも返事、その間にメールや電話の対応も・・・と言う感じで、僕の周りに沢山の人が集まってきてくれていることです。「頼りにしてくれている」それを思うと風邪をひいている暇もなくて、この半年間、病欠はゼロです。

 今後は簿記だけでなく税務も勉強して、どこの会社ででも通用する経理マンになる、ということが目標です。「過ちは素直に認めて直す」という心がけで日々の進歩を大切にして行きたいですね。

 Kaienの訓練生には、尊敬する松下幸之助の言葉「わるい時がすぎれば、よい時は必ず来る。力を蓄える者には時期が来る。あせらずに時を待て」を送ります。発達障害の人って、ある分野にとても詳しかったり、特定のことだったら集中が凄かったり、本当に面白い。ベタすぎて使いたくない言い方ですが、みんな違ってみんないい。種の多様性が保たれているんですよね。発達障害だからダメとか、どうせ、っていじけない。自分で制限をかけないで、自分らしく、個性や特性を生かせる職場で働く、そういう生き方をして欲しいと感じています。私は怒られるのが苦手で、障害枠であればそういうこともおそらく少ないし、安心して働けるのではないか、と考えました。そういう働き方も含めて、自分らしく働けるって大切だと思います、ええ。

趣味のカメラ。訓練帰りに秋葉原のカメラ店に立ち寄っては「就職して、欲しいレンズやカメラを買う」と誓ったそう。

「春を待つ心で力を蓄えること」を教えられた松下幸之助の本。

Aさん:教育支援の仕事で受けた研修から自身の発達障害を疑い診断を受ける。Kaienの訓練を経て経理の職に。中学・高校の国語教諭免許、簿記3級、Microsoft Office Specialist、衛生管理者1種免許、個人情報保護士、アマチュア無線技士3級、他全部で12の資格の持ち主。現在、危険物乙類第4種取扱者免許、第2級特殊無線技術士免許に挑戦中。趣味は旅行、カメラ、アマチュア無線、写経、短歌作りなど。

  • 取材: 2018年7月
  • 性別: 男性
  • 年齢: 33歳
  • 診断: 2015年 発達障害(ADHDかASDか不明。自分ではADHDだと思う。)
  • 業種: 大手商社の特例子会社
  • 職種: 経理を中心に契約書など文書管理の他、社内労災予防も担当
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