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自分を知るための、温かな場所 ~私とKaien 第7話~

2016年5月25日

『私とKaien』は当社の就労移行支援を利用していた訓練修了生や、ガクプロやTEENSをご利用中のお子様を持つご家族など、Kaienと一緒に発達障害の魅力を世の中に広げていただいている方々へのインタビューシリーズです。

第7回は、就労移行支援を利用し障害者枠で就職した20代男性に話を伺いました。首都圏を中心に展開するインテリア雑貨店の運営会社に就職し、3年目を迎えます。

自分を知るための、温かな場所

多忙な葬儀屋業についていけずに

いつもはテレビを見ない午前中に母がテレビをつけたら、Kaienと発達障害の特集番組をやっていたそうです。偶然見ることになったこの番組で、母は僕が発達障害ではないかとの疑問を持ちました。Kaienの説明会のことはあまり覚えていません。テレビに出るほどだし、新しい取り組みをしているのだろうと思いましたが、良い意味で、思ったより普通という印象でした。無茶なことをさせるところではないと分かり、安心したのを覚えています。

一般的な発達障害の特徴と僕自身の特性で一致しているのは、あいまいな言葉に弱いこととと、臨機応変な対応が苦手なこと。Kaienの説明会に出た後に診断を受けましたが、自閉症スペクトラムという診断名を聞いてもショックはありませんでした。母の気づきをきっかけに心の準備ができていましたし、小さいころから何となく感じていた、「周りの人と違う」という違和感にも説明がついたと思いました。小学校のころから、工作など課題を出されても自分だけ解釈が違って、提出物が他の子と違うということがあったんです。

でも発達障害の苦手が顕在化したのは一般枠で働いてからでした。23歳で大学を卒業し葬儀屋で働いたのですが、次から次に状況が変わるスピードの速さについていけない。電話で受注をいただいたら夜中でも駆けつけて、その場で葬儀の日にちを決めてご遺体を引き取り、葬儀当日になったら必要な道具を車に積み込んで運転し、準備を整え、葬儀客の案内をし、葬儀中は写真を撮影して、アルバムを作って納品して、とさまざまな仕事にスピーディーに対応しなければいけませんでした。

チームで仕事をするのですが、自分が何を担当するかが決まっておらず、手持ちの仕事が終わった人からまた、どんどん次の仕事を片していくんです。「自分はこれをする」と割り振られていないので、どう動いていいかわからない。「あの道具準備して」と言われて、別の道具を用意してしまったこともよくありました。ほかの方に仕事ができる方が多かったのでカバーしてもらえましたが、僕自身は忙しくなるほどにパニックになってしまいました。

八方ふさがりからたどり着いたKaien

結局、4カ月で辞めることになりました。仕事内容のストレスと、週に3日は会社に泊まり込むという体力面の厳しさも大きかった。でも実は、退職しても大きな不安はありませんでした。実際の就職先は葬儀にまつわる新製品を開発する会社設立を目指している組織で、葬儀屋はその提携先として出向していただけだったんです。新製品開発の組織が軌道に乗って会社になれば、そこの正社員になれるはずでした。でも設立自体が難しいということになってしまったんです。その組織でアルバイトをしながら、一年待った末の結果でした。

先行きがわからず、途方にくれました。「このままでいいわけがないが、どうしていいか分からない」という八方ふさがりの状態。自分のすることすべてに自信が持てなくなっていました。そしてある日、母が見たテレビでKaienを知ることになったんです。正社員になれないと分かってから、さらに一年が過ぎていました。

Kaienを利用したのは26歳のとき、2013年8月から2014年の3月までです。始めは週替わりの訓練に参加。最初の一週間は、報告・連絡・相談が全くできませんでした。上司役の講師がいるのですが、上司も忙しいはずだから、自分が声を掛けたら迷惑だろうと思ったんです。自分から話しかけるのが苦手なのは、自閉症の特徴の一つのようですね。でもその結果、業務理解がずれて、数日分の時間が無駄になってしまった。これをきっかけに報告・連絡・相談の重要性がわかって、仕事に必要な報告や相談を自分から必ずするようにしました。

週替わりは年末まで5カ月続けて、2014年が明けてから子供の古着を売るオンライン店舗の訓練に移りました。あわせて就職活動も始めました。僕にとって、就活での最大のネックが面接。初対面の人と話すことや、どんな質問をされるのか分からないのが本当に苦手でした。大学時に就活していたときは、面接をしたくないあまりに「書類通らないでくれ」と思っていたくらいです(笑)。でも、「公開面接練習」で突破口を見つけたんです。他の訓練生約20人を前にして、スタッフを面接官役に模擬面接を受けるのですが、改善点を教えてもらって自分の課題が分かったし、何より緊張に強くなりました。本番で緊張はしましたが、「あの時よりはましだな」と思えたんです。

メッセージカード

修了時にスタッフからもらったメッセージカード。ふとKaienを思い出すときに読み返す。

好きな雑貨店につながる、まさかの縁

第一志望の職種は経理でした。興味があって、大学卒業後に簿記3級をとっていました。でも障害者枠ではあまり募集がないので、データ入力の職種で2社受けることに。第一志望の会社は不動産関係の会社。実習に行きましたが会社の雰囲気が体育会系で、自分には合っておらず辞退しました。もう1社は、志望度は高くなかったのですが、実習に行って好きなインテリア雑貨のお店を運営している会社だとわかりました。その上、実習での業務内容が経理職だったんです。簿記3級の資格を見て決めてくれたようでした。こんな幸運な縁が、あるんだなって。

この年の3月が、Kaienでの訓練の最終月になりました。月頭の月・火・水曜にこちらの会社へ実習に行って、木・金曜はオンライン店長業務の引継ぎを受けて、3月末までの残り3週間、店長をしました。訓練修了に向けて、もうずっと、上り坂(笑)。店長業務に興味はあったんです。自信がないし難しそうだけど、内心は、「せっかくだからやってみたい」って。大きな挑戦でしたが、挑戦して本当に良かったです。坂を上り切ったところで、4月1日に入社しました。

現在の会社に入社して2年が経ちます。入社して一年は書類のスキャン、データ入力、店舗個別の出納帳の金額をチェックし、不明な内容があったら、各店舗の担当者に問い合わせをするという仕事をしました。2年目に社内の新陳代謝があって、部署内の人員が入れ替わり、仕事内容が一段階難しいものになりました。伝票の起票や連結仕訳のほか、損益をデータ上で確認し異常値がないかをチェックするPLチェックや、その原因を調べる増減分析というような、部署内でも難しいとされる仕事を任せていただいています。

その他にも、ひと月に一度、経費チェックを振り返ってデータを集計し、自分が所属する財務経理部ミーティングで報告しています。ミスの傾向を見て、ミスを減らせる方法はないか、経費削減できる点がないかなど改善案を出すことで会社の経営改善に役立てていると思うと、大きなやりがいを感じます。

電卓とペン

仕事でいつも使っている電卓とペン。業務では欠かせないアイテム。

オンライン店長の経験が今に活きている

配属先の財務経理部はスタッフ12人のうち、障害者枠の社員が自分を含めて3人。自分が一応、リーダーという立場です。店舗ごとの売り上げの出納帳を、障害者枠の他のお二人に1次チェックしていただき、自分で最終チェックをします。二人の苦手なところをそれぞれ考慮して、仕事量や内容、締切日の伝え方など調整しています。さじ加減が難しいし気を遣うところですが、オンラインの業務経験がとても活きているんです。

まず、メンバーの向き不向きや量を考えて仕事をアサインする点。それに、経費精算の対応が状況によって変わる点。そしてさまざまな業務を、優先順位を考えて動く必要がある点。マルチタスクを抱えての臨機応変な作業は苦手だったはずですが、一度覚えられればルーティーンの作業としてこなせるんです。これも、店長を経験してわかったことです。

僕にとってKaienは、自分を知るための場所でした。それには、挑戦して、失敗することです。失敗すると改善案が上がってきます。やってみて初めてわかることがあるし、向き不向きを知ることもできました。ビジネスマナーのグループワークのリーダーや店長業務も、「自分がリーダーなんて」と思っていても、チャンスがあるなら、やっぱりやってみるのもいいかなって(笑)。そして、温かく見守ってくれるスタッフがいます。いろいろと建設的なアドバイスをしてくれる存在がそばにいるから、失敗も怖くない。失敗がすべて、今の仕事に生きているんです。

(取材:2016年4月)

■古瀬さん:29歳・男性。一般枠で働いたのをきっかけに自身の発達障害に気づき、26歳でKaienの利用を開始。8カ月を経て、若者に人気の家具・インテリアショップを運営する会社に就職し2年になる。

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