嘘は売りたくない鼎談『社員番号1・2・3で振り返るKaien7年史』 第1回
当社の想いや現場での働き甲斐をお伝えする『懸け橋』。5回シリーズで、社長であり社員番号1番の鈴木、2番の田中正枝、昨年末に取締役・執行役員に就任した3番の須賀智美の鼎談をお送りします。
これまで管理職がいない、完全にフラットな組織であったKaienも、スタッフが150人を超え、約700人の利用者に日々サービスを提供する規模の会社になっています。更なる成長を見越し、社長に指示系統が集中する状態から、社員一人一人がより力を発揮しやすい強固な組織作りをしている最中です。
初期から在籍するメンバーが、今までどう働き、今後を見据えているか。第1回はKaienの7年半を一気に振り返ります。
売上がない草創期
鈴木慶太(以下 鈴木): まず自己紹介のような形で、Kaienを知ったそもそものきっかけや、一番初めの頃の思い出を教えてください。
田中正枝(以下 田中): 総務の田中です。Kaienを知ったのは、2009年秋の設立間もないころ。元々発達障害に関心があってネットで調べている中でみつけました。ちょうど大人の発達障害がメディアで取り上げられ始めた頃ですね。Kaienが他と違うと感じたところは、可哀そうな人を助けてあげようみたいな感じがないところ。営利団体というのも新鮮でした。
須賀智美(以下 須賀): 私はキャリアチェンジして、福祉の仕事をしようと思っていた時にKaienのことを知りました。福祉の学校に通いながら1年半ほど支援現場の体験もして。でもずっとその道を進むことには違和感を感じて、大学院に進学しました。発達障害の支援に興味があって情報を集めていたら、「MBAを出て日本で起業した人がいるらしいよ」と教えてくれる人がいて、キーワードをいろいろ入れて、Kaienのホームぺージを見つけて。それが出会いです。
当時鈴木さんは、創業時の複数のスタッフが辞めていってチームを作り直すところで苦しんでいて。けれど、驚くほど正直に現状を話してくれた。Kaienがやっていたことは、私がやりたいことと同じだったし、在学中なのでフルタイムでは働けないけれど、学業と並行してならできる。何かお手伝いさせてください、と鈴木さんに言った感じです。
鈴木: 創業して1年経たない頃で、マンションの一室で3~4人の職業訓練をしていたような時だよね。懐かしいというかなんというか辛い思いでしかないけど…。田中さんは、元々発達障害の支援に興味があって、Kaienの福祉色があまりしないところに面白さを感じた。須賀さんも今までの福祉との違いを感じたんでしたっけ。
須賀: そうですね。今まで誰も手を付けていないことに取り組んでることに興味を持って。
鈴木: 須賀さんは長くビジネスの業界にいて、その後進んだ福祉の業界で、違和感を感じたんですよね。それはどういう点ですか?
須賀: 私は、前職の福祉の現場では、ビジネスの世界と同じような、言ったことは言ったこと、言ったことで自分を不利にはしないというようなコミュニケーションをとることで怒られていて。コミュニケーションの仕方が、ビジネスと福祉の世界では全然違ったんです。「うん、うん」、「そうだね、そうだね」って話を聞く。そして、その情報を整理しようとする。でもその整理は好まれない。私は構造化(注:全体を把握したうえで、その構成要素間の関係を分かりやすく整理すること)とかが得意なんですけれど、そういうコミュニケーションが福祉の支援のスタイルとは違うというか。
鈴木: 共感傾聴や空気を読みながらとか、ビジネスにもないわけではないけれど、福祉の方でより大切にされている感覚やコミュニケーションの方法がある、と。
須賀: なので、私が得意としている方法と、福祉の世界で大切にしているものはなかなか相容れないのだろうなと思ってしまった。そういう現場に入っていこうと思えなかったんです。
鈴木: 初め、お二人がパートタイムとして働いてくれたのはありがたかったです。フルタイムで働きたいといわれても、給料が払えない。当時月間の売上げが30万とかでしょう。田中さんがフルタイムになったのは、横浜市のモデル事業に応募して、スタッフを2,3人雇えそうになった時ですよね(注:2011年に横浜市の発達障害者支援のモデル事業において、Kaienが実施機関に選ばれ事業を受託した)。
田中: 私は当時別の会社に在籍していたので、週0.5日ほどKaienでパートタイムとして働いて。2011年の震災後に、鈴木さんに声をかけていただき、転職してフルタイムになりました。売上げを知らずに入社したので、入社して財政状況が分かると、こんなに大変なのによく雇ってくれたなって。
須賀: 私は大学院を修了した2012年から、鈴木さんに頼んでフルタイムになりました。横浜市の事業が取れたのが私の中で大きかった。これでサービスを広げられそうだし、広げるべきだと思って。
鈴木: その頃が激動だった。グリービジネスオペレーションズさん、サザビーリーグHRさんとの契約が決まって(注:2012年に、両社の特例子会社設立に対し、Kaienがコンサルティングなどのサービス提供を行った)。その半年後には就労移行支援も始めたし。
須賀: 当時は、大学院の論文を書きながら、グリーさんの特例子会社の準備をしてましたね。社員合宿に行く車の中で、特例子会社の名前を皆で勝手に考えたりして。
鈴木: グリーさんの社内コンペで、Kaienをコンサルティングに指名してくれると分かったのが、ちょうど合宿に向かう車の中だったよね。電話を取って、「わー!どうしよう!」ってね。横浜市の事業と同時にグリーさんの方もやることになって。直後にサザビーリーグさんとの契約も始まって。人手が足りるかなという感じでしたね。
須賀: 人もいないし場所もない。当時、田中さんは転々としてましたよね。麻布十番のオフィスから赤坂へ移って、その後五反田に間借りしたり。机二つぐらい分だけKaien、というところで仕事をして。
鈴木: しばらくは事務作業をするスペースがなかったから。赤坂も五反田も、ETIC.さん(注:NPO法人ETIC.)や色んな人の善意で貸してもらったんですよね。
田中: そうですね。転職早々、働く場が転々として、しばらくは密かにハラハラしてました。イベントを開くときに会議室を貸してくださる会社さんがあったり、本当に様々な方々の善意に支えられていたなぁと。ありがたいことです。
Kaienらしさの醸成
鈴木: その後はビジネスモデルを確立した時期で、それほど大きく変化があるわけではないですけれど。その落ち着いて成長してきた段階で、自分はどうKaienの力になってきたと思いますか。社員番号2番、3番として、どういう役割を果たしてきたか。
須賀: 仕事なので、もちろん楽しいことばかりではないです。嫌なこともいっぱいあるけれど、でもすごく楽しくて。発達障害の人と一緒にいるのが面白い。面白いというと誤解を招いてしまうかもしれないですけれど、支援者、職業人として一線を越える感覚ではないかと思っています。とにかくこの数年間、私はその想いを現場でひたすら体現してきたつもりです。
鈴木: それがKaienっぽさかもしれないですね。須賀さんは新しい拠点ができると異動してきたので、半年~1年ぐらいしか一つの拠点にいない。いろいろと回りながら各拠点にそのエキスみたいなのものを注入してきた感じですかね。
鈴木: 田中さんは?会社が大きくなると、こういう総務を経験することはないじゃないですか。社長がお金をもらっていない時代から、今は百何十人の社員がいて、十何個のオフィスがあって、色々な免許や登録の業務があって。自分も成長していかないといけないし、やることも増えてきたと思うんですけれど。どういう風に役割を果たしてきたと思うかな。
田中: 前の会社でも事務職でしたが、毎月同じ種類の業務をルーチンとしてしてきただけでした。総務的な事務を知らなかったので、Kaienに入社してからは須賀さんに教えてもらいながら目の前に来るものをなんとかして一個一個こなしてきた感じです。仕事をしながら濃密に勉強させてもらっているなぁと感じています。総務の知識というハードスキルでも、未知なことに遭遇したときの対応方法というか腹の括り方みたいなソフトスキルにおいても。役割を果たすというよりひたすら学ばせてもらっているなぁと感じます。
鈴木: 現在社員はフルタイムが60人ぐらい、パートタイムを合わせると150、60人。辞めていった人もいるし、逆に入ってくる人もいるけれど、どういう特徴があると思いますか?「行く人来る人」ではないですが、まず「来る人」。どういう人がKaienに来てくれているかな?
須賀: 発達障害というキーワードで来ている人もいるし、福祉の世界で今までと違う形で実績を出しているというところに惹かれている人も多い気がします。
鈴木: 福祉と新しさですか。田中さんは?
田中: ソーシャルビジネスみたいなのに興味を持っている人がいらっしゃっているのかなぁと。
鈴木: ほんとに?僕は、社会的に良いことをしようという人が来ているとはあまり思ってなくて。大きな枠組みで、難民問題とか、困窮世帯の問題、保育といった様々な社会課題の中で、「自分は社会貢献をしたいんだ」という人が、「あ、こういうのもあるんだ」という風にKaienに惹かれるケースは少ないような気がするんだよね。いわゆる意識高い系はあんまりいない。
ただ、嘘は売りたくないという人は来ていると思うんだよね。いわゆるソーシャルビジネス系って結構嘘を売っていると僕は思うわけですよ。自分たちは良いことをしていますと言いながら、実際そうじゃないことってあるじゃないですか。お金もうけに走ってたり、実際より良く見せかけていたりとか。少なくともKaienはそういった部分はないと思う。
須賀: 今のKaienで良くないところ、例えばトラブルとか事故とかヒヤリハットとか、鈴木さんは講演でしゃべってますからね。
鈴木: そういう表裏のなさを感じて来る人はいるんじゃないかな。採用面接に来る人の話を聞いていると、絶対必要じゃない商品をお客様に売らないといけなかったり、社会貢献っぽい会社に入ったけれど、勢いよく成長していく中でいい顔をするためにソーシャルなことを言っているのに幻滅したとか。もっとまともなところがあるはずと思ってる人たちが来ている気はします。
田中: そうかも。地に足の着いたソーシャル感覚を持った人。
鈴木: だからKaienに来る人は、発達障害に興味を持っている人と、売っているものに自信を持ちたい、本物を売りたい人が来ているかなぁと思っています。
鼎談『社員番号1・2・3で振り返るKaien7年史』
- 第1回 嘘は売りたくない
- 第2回 支援者と利用者は同じ船に乗っている
- 第3回 Kaienの文化と社風 Q&A①
- 第4回 Kaienの文化と社風 Q&A②
- 第5回 明日の当たり前を創る
田中正枝
Kaienの社員番号2番であり総務所属。県税事務所、メーカーでの勤務を経て、損保系会社の人事事務に。2010年にパートタイムとしてKaienに入社。翌年からフルタイムとして勤務。
須賀智美
Kaienの社員番号3番であり取締役・執行役員(経営本部担当)。大学卒業後、13年間鉄道会社に勤務。退職後、上智社会福祉専門学校、慶應義塾大学大学院へ。2010年、大学院在学中にパートタイムとしてKaienに入社。2012年、大学院修了と同時にフルタイムとして勤務。