ビジネスと福祉の二刀流Kaien共同創業者 対談シリーズ 第4回
当社の想いや現場での働き甲斐をお伝えする『懸け橋』。5回シリーズでKaienの共同創業者であり、社外取締役である徐勝徹(ソ・スンチョル 通称ちゅるさん)と、社長の鈴木の対談をお送りしています。今回は4回目です。
2009年に鈴木たった一人でスタートした当社も、今ではスタッフが150人を超える会社になりました。更なる成長を見越し、社長に指示系統が集中する状態から、社員一人一人がより力を発揮しやすい強固な組織作りをしている最中です。
社外取締役として年に数回の会議・スタッフ合宿に参加する立場だった徐も、この半年は月の半分ほどの時間を当社の組織構築のために費やしています。共同創業者2人の対談を通じて、Kaienが生まれる前から今まで、どのようなことを考えて何をしてきたのか、これから何を目指していくのかを皆さんにお伝えできればと思います。
第4回はKaienの文化・社風についてです。
ビジネスと福祉の二刀流
鈴木慶太(以下K): 社員のことで他に何かありますか?さっき(注:前回までの記事)話に挙がったピュアさとか、向いている方向が一緒ということの他に、たるむ人がないというか、皆頑張りすぎる感じもあると思うけど。
徐勝徹(以下C): たるむことがないというのは、ピュアさやベクトルの方向性が一緒ということの裏返しかもしれないですけどね。Kaienの本当の強さとかユニークさを出すには、上手いたるみ方を考える必要もあるよね。福祉業界って多分、そういう人が集まりやすいし。
K: 確かに。手を抜かない人が多い。
C: 皆が同じ方向を向きながらも、上手い手の抜き方ができるというか。一歩引いて大局を見たら、こっちは手を抜いて、別のところでもっと新しいことを考えたり、より良いものを作るというような頭の使い方をできる組織にしていく必要はあるだろうね。
K: 確かに現場だけに突っ込んでいくというのも、なんか違う感じですね。
C: Kaienの現場スタッフにヒアリングをさせてもらった時に、いいところでもあり諸刃の剣になりかねないと思ったのが、現場至上主義。現場にこだわりがあるのはいいし、目の前の人と向き合うのが重要じゃないというつもりは更々ないけども、はまり込みすぎる感じもあって。でも、福祉のベテランの人の方がはまり込みすぎないと言っていたかな。
K: ベテランになれるというのは、そういうことだと思うんだよね。始めのうちは、はまり込むのが重要で。Kaienの場合、大きく分けるとビジネス畑から来る人と、福祉畑から来る人がいて。福祉出身の人は、今の組織でビジネスの力を付けつつある。彼らは、初めの数年間で、転職前に福祉の苦しさを分かり、段々といい意味で力を抜いてもホームランが打てるようになっている感じ。一方、ビジネス出身者は、Kaienに入社して2,3年の人が多くて苦しんでいるな、と。
C: どういう風に?
K: 全身全霊で打ち込めば物事が前に進む。けど、どうしたら支援を自分の中で方法論化できるかというところで悩んでるところですね。ここで脱皮してくれて、ビジネス出身の人も福祉出身の人も二刀流になれると、結構強い組織だなと。皆が皆そういう風になる必要はないけど。
C: 多分、ビジネス系のスキルのほうが、一般化して学びやすいんだろうね。
K: そう。僕は1、2年前まで、ビジネス出身の人に福祉を教えたほうが簡単だと思ってた。なぜかというと僕がそうだから。でも皆がそうではないことが最近分かってきた。実際どちらのほうが二刀流になるのが早いかというと福祉出身の人。ビジネスの2,3年生で学ぶことってノウハウがあるし、見える化されている。でも発達障害の支援の方は、なかなか見える化できない。じゃあどうするかというと、さっきの話に戻る(注:前回の第3回 支援への思いがある集団は現場から学べる)と、現場から学ぶ方法を作らないといけない、ということになるよね。
C: 両方必要なんだろうけどね。現場から学んだ内容自体を、ある程度パッケージ化して見える化することも必要。だけど、それを切り売りしているだけでは続かないし、常に新しいものを作り出す力を養成、蓄積していかないと。本当に難しいけどね。
K: 難しい。
C: でも難しいからこそ、慶太さんが意識してやらないとならない。
K: そうだね。現場から学ぶ方法を作るというのが自分の中で新しい宿題になったわけで。今までは皆を現場の支援者として成長させないといけないという目標はあったけど、道が見えていなかったから現場に入ってぎゃあぎゃあいうしかなかった。けど、道が見えてきたのでだいぶ楽にできるんじゃないかな。でも数年はかかるかな。
4番打者だけじゃあ仕方ない
C: 慶太さんの期待値を、皆が100%以上超えてくる日は永遠に訪れないかもしれない。
K: 皆が超えなくてもよいだろうなとは思うけど。でも会社としては、いい意味で自分が操縦できなくなると面白いと思うけどね。
C: 本当にそうだと思う。操縦できている限りは、操縦できる枠の中に組織を押し込めちゃっている。
K: そうだよね。だからある程度大きなビジョンがあったほうがいいと思って。皆好き勝手にやっているつもりだけど、実は同じ方向に流れているのが理想で。こんなことが出来たの、そんなことも出来たのというのが多発するようにしたい。
C: 慶太さんを超える会社にならなきゃいけない。
K: 僕の軸ではないところで超えてほしいですよね。鈴木慶太軸を追求していくとそりゃあ誰も僕には勝てない。それは各人がそうなんだけど。
C: だからもっといろんな軸が出てきて、それが集合体として結果を出していくようにしないと。
K: 難しいのは、自分でいうのも何だけど、今までは悪い意味でも現場に介入していたけど、いい意味でも僕と個の契りみたいなもので動いてくれている人が多かった面もあった。今回組織化するうえで、そこの信仰をいい意味で諦めさせることも必要なのかなと感じているのですが、ちゅるさんはどう思いますか。
C: 慶太さんとの個の信頼関係は、根っこのところではすごく強みになるはずだから、それを薄めていく必要は全然ないと思う。ただ、その発揮され方に関する期待値が問題かな。それが今までは、鈴木慶太軸にはまってこいみたいな形だったから。
K: 僕はそう思っていなかったけど、社員にはそういう風に聞こえていた。
C: それが慶太さんの信頼、期待に応えることだった。けどそうじゃなくて、それぞれのこだわりをいい意味で活かしていけるといいよね。もちろんこだわりだけを追求すればよいと言っているわけではないんだけど。人それぞれ強み弱みもそれぞれ違うわけで。Kaienに100人の鈴木慶太がいればすごい会社になるかというと、それはそれでカオスの会社になる。
K: 僕は発達障害の人の支援が得意だけど、それでも6、7割の人に対してしかはまらない。心理のカウンセラーの人に聞くと、カウンセリングでリピーターになる率って2割ぐらいみたい。そう考えると僕のリピーター率は極端に高い。だけどそれでも6割どまり。
C: 一人のやり方で全員にはまることはできないんだから、やはり違う視点を持っている人がいないと強い会社にならない。4番打者ばかり集めてチームを作っても勝てないというのと同じだね。
Kaien共同創業者 対談シリーズ
- 第1回 発達障害が資本主義にどう向き合うか
- 第2回 息子に感謝すること
- 第3回 支援への情熱がある人は現場から学べる
- 第4回 ビジネスと福祉の二刀流
- 第5回 自分のことを信じて守ってくれる人
徐勝徹(ソ・スンチョル)
株式会社Kaienの共同創業者であり、社外取締役。日本生まれの在日三世。早稲田大学卒業後にアメリカの大学院(ミシガン大学公共政策大学院)へ。非営利の分野にて勤務後(韓国でユネスコ、フィジー・ミャンマーで国際赤十字に所属)、日本で戦略系コンサルタントに転身。MBA留学を挟んだ後に自身の経営コンサルタント会社(株式会社プロジェティーム)を立ち上げる。Kaien代表の鈴木とはMBA(ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院)の同期。