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複数の視点で自閉スペクトラムを考えるドラマ「思うままの世界(原題:As We See It)」が面白い社長ブログ

2022年2月5日

最近は年に1作は、発達障害系のドラマが出ているようですが、たまたま昨夜見始めて今見終わった「思うままの世界」がとても面白かったので共有です。Amazonオリジナルの海外ドラマでAmazon Primeで見放題となっています。先週ぐらいから視聴可能になったようです。

実は個人的にはあまり発達障害系の映画・ドラマは観たことが無い(レインマンすらちゃんと観たことはない)ので他のドラマとしっかり比較をしているわけではないのですが、このドラマは(自分のような10年、家族として支援者として、発達障害界隈に生きている人間からも)非常によくできています。

理由① 支援者目線で描かれている

一見、LAのアパートで共同生活をする3人の自閉スペクトラムが主人公に見えます。が、実際は、ライフコーチ/エイド(生活支援者)として描かれている人の目線が濃く描かれています。だからこそ、親や兄弟、地域に住む人、職場の上司・同僚などの視点が多角的に入ってきます。本人目線の映画やドラマが多かったと思うのですが(つまり「本人 対 社会」という構図が多かったと思うのですが)、このドラマは本人も含む多くの人が発達障害をキーワードに自分の人生を生きている様子がとてもリアルに伝わります。

そもそも、自分が英語を理解していないのか、日本語訳がややずれているのかわかりませんが、As We See It は、見ての通りというような意味にもとれるし、タイトルを見てもWeが強調されているので、さまざまな I が含まれた We で発達障害を描きたいという意図なのかなぁと思っています。邦題だと分かりづらいですが…。

理由② 発達障害3人が並列に描かれている

働いて生活費を稼ぐこと、親亡き後も自立していくこと、このあたりのテーマが3人の20代の自閉スペクトラムの青年の視点で描かれています。通常の発達障害のドラマだと、一人が主人公になるのでどうしても多様性を描きづらい、あるいは一人のキャラクターに複数の発達障害の特性を持たせすぎる感が強いのですよね。しかしこのドラマは3人が共同生活しているという設定なので、複数の特性を描くのに無理ない設定にできている。このため発達障害の界隈で生活している人からも突飛なドラマに見えないのが花丸です。例えばADHDの衝動性もあるタイプ、感覚過敏があるタイプ、2E/ギフテッド的なタイプ、女性の発達障害というタイプ、など複数の視点が見事に描かれています。

このドラマの元ネタは、イスラエルのドラマらしく、そちらは発達障害の青年20人ほどの共同生活を描いたものらしいのですが、さすがハリウッドというかAmazonというか、無駄をそぎ落として3人という視聴者が追いつける人数で発達障害の多様性を描けているのは、プロの技と圧倒されました。

理由③ 俳優陣が当事者である

今回は当事者が、主役3人を演じているそうです。といってもまったくその当事者性は見えないぐらい、凄い演技です。つまり過剰演技もないし、それはないよと言うずれた演技もない、非常に自然に観られます。

そしてなんと、発達障害の当事者2人が、当事者ではない役を演じているということまで、ネットの評論記事に書かれていました。一体誰なのでしょう?とても分からないぐらい俳優陣がとても上手で、発達障害の有無/多寡に限らず、ドラマが作り出す世界に溶け込んでいます。

理由④ テーマ設定が適切である

発達障害のドラマ・映画というと、ちょっとリアル感が無い設定になることが多い。悲観的過ぎたり、コミカルすぎたり。でもこのドラマはとても現実的で、就職や解雇、デートやセックス、支援者との関係、兄弟との距離感、親との距離感、親亡き後の生活、そして普通とは何なのか?ということがとても上手に描かれています。人間関係の中でも、兄弟との距離感は凄くリアルで考えさせられます。

一方で、片づけられない、部屋が汚い、身だしなみが汚いのような、人間関係に関係しない、日々の生活の中の実行機能障害的なものはほぼ取りあげられていないですね。日本で発達障害というと身の回りのことが出てきやすいし、映像化しやすいですが、今回のドラマではそのあたりを削っているのも、視聴者からするとドラマに入り込みやすい理由かと思います。

理由⑤ 日米の比較が出来る

アメリカだと発達障害の人は生きやすいんじゃないかと言われるかもしれませんが、ライフコーチ付の生活を実現するためにも月2000ドル(20~25万円ぐらい)かかることがさらっと第7話ぐらいで出てきます。日本は同じようなサポートを受けるとしてもほとんど税金で賄って自己負担が無い。本当にいい国だなぁと思いますし、アメリカはビバリーヒルズに住むような家族か(ドラマの主人公の一人もヒルズのご子息)、なけなしの金を注ぎ込むような生活をしている家族がいるかじゃないと、日本並みのユニバーサルなサポートが受けづらいという現実が分かります。他にも、パーティーに必ず誰か友達を誘わないといけないという、発達障害で親しい間柄の人がいない場合は地獄のような社会性が求められるようなこともしれっと描かれています。このあたりは日本のほうが生きやすいなと思う点ですね…。

一方でナイジェリアからの移民が発達障害の人に寛容であるなど多様性への理解があったり、みんな自己主張が激しく良い意味で空気を日本のように読んでいないので発達障害的な行動があっても日本ほど「変な人センサー」が敏感でなさそうなところが有ったり、米国だからこそ生きやすそうだなぁという点も見られます。

ということで5つ星的にお勧めです。

 

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴社長ブログ一覧

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