コーポレートサイト : 株式会社Kaien
MENU

毎年2千億円の公費を計上 発達障害児支援の社会的価値はどれほどか?英国”インパクトレポート”から見つめ直す放課後等デイサービスの意義

2018年1月31日

 2018年1月前半、イギリスで就労支援を行う企業・団体の視察研修に当社から2人が参加しました。この視察研修は、J.P. モルガン協賛で特定非営利活動法人ETIC.が運営している就労・自立支援に取り組むリーダーを対象としたプログラム「IMPACT Lab.」の一環で、IMPACT Lab.には当社を含め日本で就労支援を行っている8団体が参加しています。

 支援者インタビュー『懸け橋』。今回は英国視察を終えたばかりの教育事業部担当 取締役・執行役員の飯島さなえに、”発達障害のある子どものための公的補助の価値をどのように評価していくか”に聞きました。

イギリス視察研修から学んだ”社会的価値の評価”の重要性

聞き手)ロンドンで色々刺激を受けられたと思うのですが、研修で最も印象的だったことは何ですか?

飯島)いきなり核心に入りますが、英のプロボノ企業である運送会社HCTが毎年発表する「インパクトレポート」にみられるような、社会的価値の算出と公表に対する考え方でした。

ざっくり言ってしまうと、イギリスでは社会事業運営のための公的補助や投資を獲得し続けるために、社会的インパクトの測定を盛んに行います。社会的課題の解決に繋がっているか、というだけでなく行政コストの削減されているかも評価され、その結果次第では資金援助を受けることができなくなります。そのため、多くの団体が社会的な価値を証明すべく、事業の価値を定量的・定性的両方の側面から評価・公表をしています。

HCTという団体のレポート。読みやすいよう見せ方もとても工夫されています。

【参考】HCT group impact report

 

当社は就労支援事業で社会的価値を算出済 一方障害児向け事業は未着手

聞き手)企業が社会的価値を算出し発表するという行為は、日本ではまだまだ盛んとは言えませんね。

飯島)実はKaienは毎年の年末に社会的価値の計測を行っているんです。

Kaienは発達障害のある方の就労支援・キャリア教育のサービスを提供しており、利用料の多くは行政が負担をしています。そのため、税金を投入するだけの価値があったかというのを示すためにKaienの就労移行支援を通じて就職した人数や定着した期間などを公表するとともに、増加した納税額や減少すると見込まれる生活保護費の金額から当社に投入された税金の額を差し引き、どれくらいの金額を国庫に返しているのか…つまり消費した税金をどれくらいプラスにかえているかを発表しています。

日本では非常に珍しい例で視察先でも大変ポジティブな評価をしていただけました。

【参考】Kaien社会的価値 ~2017年を振り返る~

ただ、残念ながらこの計算には、私の担当である障害児支援の部門はコストとしてしか入れられていません。就労よりも進学・就学に進んでいく子どもたちが多いTEENSでは、その価値を金銭的に換算しづらいのです。

聞き手)けれど研修を通じて障害児支援部門の社会的価値算出の重要性に気づかれた、というわけですね。

発達障害児向け放課後デイサービスの社会的意義

飯島)はい、その通りです。子ども向けのサービスこそ社会的価値の算出が求められると感じました。

今放課後等デイサービスの利用者数・施設数が急増していて、財政を圧迫していることが問題視されています。これに伴い障害児通所支援にかかわる報酬基準が見直されているわけですが、見直しに当たって、障害児の行動症状の軽重に伴う支援者サイドにかかる手間の多寡や、支援内容の適不適だけしか考慮されていないような気がするのです。

聞き手)もう少し詳しく障害児通所支援にかかわる報酬基準見直しの背景を教えて下さい。

飯島)放課後等デイサービスの総費用額(平成28年度)は1,940億円で、障害児支援全体の68.5%を占めています。この制度が始まった平成24年4月以降、大幅な増加を続けています。また、一部施設ではアンパンマンのビデオを見せるだけ、といったように支援内容が不十分であることが指摘されています。

障害児通所支援に係る報酬・基準について 資料より放課後等デイサービスに関する情報

この問題に対応すべく今年度より人員体制の基準等が見直されたのですが、障害児通所支援に係る報酬・基準に関する会議では支援対象についても下記のように言及をしています。

【参考】障害児通所支援に係る報酬・基準について

聞き手)軽度障害児のみを受け入れ、重症障害児の受け入れを拒否する施設の存在が問題になっていますね。

飯島)そうなんです。現行の報酬区分は、重症心身障害児とそれ以外に分けられていて、軽度の発達障害と強度行動障害の状態にある重度の知的障害であっても同じ報酬単価となっているのです。より簡単に運営して利益を出そうという事業者が多くなることで、障害が軽い子のみ受け入れたり、重度障害児の受け入れを拒否したりという事態につながっていると考えられます。

私も放課後等デイサービスが事業全体としてより重度のお子様も受け入れやすくなる施策の導入に反対しているわけではありません。例えばより手厚い支援体制が必要になる強度行動障害のある子を受け入れた場合に報酬単価を高く設定すること等は重要で、そうあるべきだと思います。

ただし、軽度の障害児の支援に対して批判的であることには疑問が残ります。発達障害のある子どもの支援の必要性は、行動障害の重篤さだけでは判断できません。また、強度行動障害のある発達障害児への支援と普通級にいる発達障害児への支援では、支援者に求められる専門性が大きく異なります。行動障害の程度が”軽度”だからといって、支援が不要なわけでもなければ、アプローチが容易なわけでもありません。強度行動障害のあるお子さんの支援の拡充の問題と、行動障害のないお子さんへの支援の重要度は全くの別のものとして語っていく必要があります。

行動障害はないけれど、通常の教育環境では将来の自立に向けた能力の獲得が難しい子どもたちに必要な支援は何か。それにはどんな効果があるのか。「軽度のみの受け入れ」が施設側の怠惰であるという風潮にはならないよう、これらを明確に示していく必要があります。

IMPACT Lab.の視察の様子 前列右から6人目が飯島

放デイとしての社会的価値を示すには

聞き手)そのためにこそ、発達障害児支援をひとくくりせずに、その中のどんな状態のお子さんに、どういう支援を提供していて、それぞれの支援がどのような社会的価値を持っているか、きちんと算出して示す必要がある、ということですね。

飯島)そうです。やはりオリンピックにせよ市場の移転問題にせよ、税金を使う時はどのぐらいの効果があるか金額で根拠を示さないとなかなか世論は納得してくれません。

発達障害のあるお子さんの将来に向けた教育・支援の必要性を訴える時も、その社会的価値を証明していかなければいけないと今回イギリスに行って強く感じました。TEENSはそれこそ”軽度”の発達障害のあるお子さんが多いため、投下された税金額以上に、社会の発展に繋がるような価値があることを示す方法を模索していきたいです。

いずれ利用中や利用待機中の保護者の方々にアンケートなどのご協力をお願いする可能性もありますので、その時には読者の皆様にもご協力をお願いしたいと思います。

聞き手)社会的価値や成果をわかりやすい形で客観的に表そうとすることで、抜け落ちてしまう視点というものもありそうですが?

飯島)そうですね。定量的に見える部分だけでなく、定性的な分析も必要だと思います。仮にそれほど金銭的なメリットは見えなかったとしても社会全体として人として受け入れる意義はあると思うわけです。ただ今の所は放課後等デイサービスの評判は印象や感情に振り回されやすい状態ですので、数字で示せる意義をまず明確にすることで、示しづらいけれどもしっかり認めてもらいたい意義もくっきり見えて来るのではないかと思っています。

またそもそも公費に頼らない民間サービスの展開も考えています。規制が少ない中でより自由な発想で発達障害のある子どもたちの今を育て将来の可能性を広げていくようなプログラムを提供していきたいです。こちらについては近いうちに情報を公開しますので、今しばらくお待ちください。

聞き手)ありがとうございました。TEENSも含めKaienの手がける様々なサービスの社会的価値を公表する”Kaienレポート”のようなものが刊行される日を楽しみにしています。

 

【参考】放課後等デイサービス TEENSとは
【参考】就労移行支援サービス Kaienとは
【参考】Kaien/TEENS で働く

この記事をシェア / ブックマークする
Google+1
はてブ
あとで
Line
ページの先頭へ